AI原論 神の支配と人間の自由

進化

シンギュラリティ仮説と一神教思想の類似点とはー『AI原論』2

AI原論 神の支配と人間の自由

今回は、前回に引き続き、『AI原論 神の支配と人間の自由』(西垣通 著 講談社選書メチエ)を取り上げ、未来の幸福を考えるために、その書評・要約を記事にしてみたいと思います。

講談社選書メチエから出ている『AI原論 神の支配と人間の自由』(西垣通 著)は、AI(人工知能)がもたらす未来について、冷静に立ち止まって考えるために最適な一冊です。

この『AI原論』を読んで内容が難しいと感じる場合は、第六章の「AIの真実ーー論点の総括」を最初に読むと、要点が分かると思いますが、今回、当ブログでは心とは何かという問題も踏まえつつ、以下の三つのポイントに絞って、西垣通氏の『AI原論 神の支配と人間の自由』の内容を要約してみたいと思います。

 

  1. 哲学者が考える主観と科学者が考える客観の違い。
  2. トランス・ヒューマニズム/シンギュラリティ仮説と一神教思想の類似点。
  3. 生命と人工知能の違いは何か(自律性と他律系)。

 

今回は2、「トランス・ヒューマニズム/シンギュラリティ仮説と一神教思想の類似点」ということについて述べていこうと思います。

 

前回の記事では、世界の見方や心とは何かということに関してここでまず知っておくべきは、「素朴実在論」と「相関主義」だと述べました。

そして、人工知能は人間の心の主観の問題を度外視したまま、研究が進められているので、たとえ人工知能が人間の心を持っているように見えたとしても、決して人間の心と同じにはならないのであり、ましてや、人工知能が、近い未来に人知を超えた絶対知に到達するとは考えにくい、とも述べました。

 

現代哲学を学んだり、哲学者の考察を参考にしたりしながら、人間の主観や心とは何か、ということについて考えると、人間が「超越」という意味での神と同化したり、絶対知を体現するAIを生み出したりすることは不可能だということが分かってくるのですが、このことに関して、西垣通氏は『AI原論』のなかで、以下のように述べています。

 

 現代の多くの科学技術者は、カントのように人間の理性の限界を認め、物自体(即自的存在)の認識不可能性の壁で悩んだりはしていない。宇宙(世界)が人間とは独立に客観的に存立しているという素朴実在論を前提に、一生懸命活動しているのである。情報学的な観察者の議論からすると、彼らは、神の視点と人間の視点を無意識に重ね合わせているのだ。ところが一般の人々にとっては、科学技術の専門家の言葉は中性の聖職者の説教のような権威と重みをもっている。素朴実在論など、哲学的にはとうの昔に否定されているし、合理的な批判にとても耐えられないにもかかわらず、である。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p163)

 

シンギュラリティやトランス・ヒューマニズムは「救済」のための物語?

AI原論

このあたり、科学技術者でなくても、「神の視点と人間の視点を無意識に重ね合わせて」しまう思考には注意が必要であるように思いますが、専門知識が自分のなかに無い場合は、「科学技術の専門家の言葉」が「中性の聖職者の説教のような権威と重み」をもってしまうことは十分考えられると思います。

特にAIの知性が人間を超越するとされるシンギュラリティ(技術的特異点)仮説や、人間が神に化していくトランス・ヒューマニズム(超人間主義)は、一部の富裕層や巨大企業が、お金儲けのために説く未来の救済のための物語であるという可能性があります。

 

このことについては、「新しい未来の宗教「データ至上主義」とは何か?-『ホモ・デウス』」という記事でも述べましたが、膨大な量のデータやすべてのモノがインターネットでつながることによって新しい神が出現するという未来予測の話に関しては、鵜呑みにする前に少し冷静になっておく必要があるように感じられます。

なぜなら、そのような神話は、いま述べたように、一部の富裕層や巨大企業が、お金儲けのために作り出した可能性が高いからです。つまり、お金をもっている人がさらに利益を生み出すための成功物語なのだと言えるかもしれないのです。

 

このことに関して、西垣通氏は本書『AI原論』のなかで、

 

 きわめて単純化すれば、トランス・ヒューマニズムは「創造神/ロゴス中心主義/選民思想」という三つのキーワードで説明できる。救済計画をもつ唯一神がこの宇宙(世界)を創造したのであり、その設計思想はロゴス(論理)をもとにして記述されていて、正確な推論によって真理にたどりつける。そして、選ばれた人間だけが、ロゴス(神の御言葉)を解釈しつつ正義の実現をめざすことができる。それが正しい行為なのだ。したがって、「絶対知すなわち神の知」という公式のものとで、これを実現する汎用AIという存在さえ位置できることが可能となる。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p187)

 

と述べており、特に第五章「AIと一神教」では、フランスの現代哲学者ジャン=ガブリエル・ガナシアの著書などを参照しながら、トランス・ヒューマニズムやシンギュラリティ仮説がユダヤ=キリスト教の一神教思想と類似している点を指摘しています。

 

さらに西垣氏が以下のように述べているあたりは、AIについての様々な情報が溢れている昨今において、傾聴に値すると私自身は思います(特に「われわれが真に目指すべきは、AIという仮面をかぶった世界支配の野望を批判的に相対化しつつ、人間の生きる力を根源的に高める活路を切り開くことなのである」とするあたり)。

 

AIといってもしょせんは機械であり、プログラムの指示にしたがって作動するのだから、これを秘密裡に制御することは技術的に不可能ではない。そして一方、AIに疑似主体の衣を着せ、その出力を神のご宣託のごとく一般の人々に信じさせるとすれば、それは二一世紀の巧みな宗教的支配とも言えるだろう。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p166)

 

(略)秘かにもくろまれているのは、ケチくさい目先の経済効果以外のものではない。さらにその計算の奥底には、一般の貧しい人々の飢えた心をきらびやかな科学技術の神秘的物語でみたし、半永久的に操作し支配しようとする、欲望のどす黒い河が流れている。

(中略)

いったんAIの宗教的背景についての洞察力を得れば、「やがてAIロボットが人間のように自律的に、主体として賢い判断を下せるようになる」などといったグロテスクなお伽噺に惑わされることはなくなるはずだ。

われわれが真に目指すべきは、AIという仮面をかぶった世界支配の野望を批判的に相対化しつつ、人間の生きる力を根源的に高める活路を切り開くことなのである。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p189)

 

AIによる未来の繁栄と救済の物語は、ユダヤ=キリスト教の一神教思想が深く関係している?

AI原論 神の支配と人間の自由

もちろん、AIの存在は使い方によっては、私たちの生活に便利さや快適さ、人生に対しての新しい価値観や変化をもたらしてくれることも確かだろうと思います。

そのため、この記事は、AIの進化を完全に否定するものではないということは断っておきたいと思いますが、AIによる未来の繁栄と救済の物語は、ユダヤ=キリスト教の一神教思想が深く関係しており、その背景には、真の意味での心の救済というよりも、資本主義と深く関係した経済的な事情があることは、あらかじめ知っておいた方が良いのではないでしょうか?

 

 二〇〇〇年前に十字架にかけられたイエスは、身の危険をかえりみず貧しい人々に手にをさしのべたが、今や逆に、救済は富めるものになってしまったんどえある。さらに、そういう富める者がたずさわるビジネスが、論理や実証、そして科学技術的な知識としっかり結びついていることに注意しなくてはならない。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p164)

 

機械的知性であるAIが収集し分析したデータの数学的ルールにもとづく処理結果を、未来をふくむ世界の客観的な認知にもとづく絶対的判断であるとして単純に信頼してはならない。少なくとも、人間と無関係な普遍的知性がやがて汎用AIを発展させ、人間にとって幸福な未来を築いていく、という保証はまったくないのである。普遍的知性を述べ立てるトランス・ヒューマニストは、それを考えているのが人間だという事実を忘れている。

(西垣通『AI原論 神の支配と人間の自由』 p183)

 

 

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