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日頃のストレスにうまく対処することで、これからの免疫力を高める生き方、今日から始めてみませんか?
前回の記事で、変化に直面したり、困難な状況に陥ったりした際に、「体がいちばん必要とするところにできるだけ多くのエネルギーを送る」という「アロスタシス」について述べました。
しかし「免疫力の低下」という観点から問題になるのは、ブルース・マキューアン氏が「アロスタティック負荷」と呼んでいる、「ストレスでボロボロになった状態」です。
アロスタティック負荷は、ストレス自体が長く続くか、ストレスがなくなっても体が順応できないか、ストレス反応を解除するプロセスが機能しないかのいずれかの理由で、体がアドレナリンやコルチゾールに長い間さらされることから起こる。
ブルース・マキューアン『ストレスに負けない脳』 桜内篤子 訳 94‐95頁
つまり、この「アロスタティック負荷」は、分かりやすくいえば、慢性ストレスによってストレスホルモン(アドレナリン、コルチゾール)のバランスが崩れることから起こるのです。
しかしそもそも、脅威にさらされて「闘争か逃走か」というストレス反応が起きるのは、肉食動物に襲われたり、予想外の事故に遭ったり、想定外の自然災害に巻き込まれたりするなど、命の危険を感じた時です。
精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が『ストレス脳』のなかでいうように、脳が最優先にするのは、生き延びることなのであり、そのために、ストレスホルモンの働きによって、危機に対処するためにエネルギーが体が一番必要としているところに送られるのです(1)。
しかしながら、肉食動物から逃れることが出来た草食動物は再びのんびりと草を食むように、もしくは嵐が過ぎ去った後は青空が広がるように、ストレス≒命の危険を感じる危機的状況は、本来、一時的なものなのです。
それゆえ現代社会において「ストレス」というものが問題となるのは、マスメディアの情報に接するたびに自分の将来やお金のことで不安になったり、子育てや親の介護のことで悩んだり、親や教師から叱責されたことを想い起したり、過去の失敗を悔み続けたりするなど、身体的なものというよりも精神的なものであるかもしれないのです。
つまり、目の前に命を脅かす危険がないにも関わらず、いつまでも安心できず、あたま(脳)の中でストレス状態を作り上げてしまう、もしくはストレスを解消できずに溜め込んでしまうことが問題となるのです。
そしてそのような「アロスタティック負荷」が免疫力の低下と関係してくるのです。
ちなみにこのことに関しては、ブルース・マキューアン氏は『ストレスに負けない脳』のなかで、
困難な状況に直面したとき、奮い立つどころか、かえって気持ちが弱まるようなら、コルチゾールがうまく機能していない可能性がある。コルチゾールはストレスに対する最初の反応のときからすでに過剰に分泌されたり不十分であったりすることがあるし、危機的状況が過ぎたのに放出されつづけることもある。その時点でストレス反応はアロスタティック負荷になる。
とし、さらに、
コルチゾールは免疫に対してブレーキのような働きをするので、出すぎると免疫機能を抑える。慢性的にストレスにさらされている人が風邪をはじめ、いろいろな感染症にかかりやすいのはそのためだ。一方、コルチゾールが少なすぎると免疫が過剰に反応して、炎症やアレルギー、自己免疫疾患になりうる。
と述べていることが参考になります。

ブルース・マキューアン『ストレスに負けない脳 心と体を癒すしくみを探る』 早川書房
慢性ストレス → アロスタティック負荷 → 免疫力の低下を防ぐには?
慢性ストレスによるアロスタティック負荷によって心身が疲弊し、免疫力の低下が引き起こされてしまう例としては、たとえば、
- 職場や学校などの新しい環境にいつまでも馴染めず、良好な人間関係を築けず孤立感に悩まされる。
- 突然の自然災害で住居を失い避難生活を余儀なくされたり、感染症の蔓延で生活苦に陥ったりするなど、先が見えない不安な状態がずっと続く。
- 両親の不仲やDV(ドメスティック・バイオレンス)に悩まされるなど家庭環境がつらいものである。
といったことなどが挙げられます。
しかしアロスタティック負荷とは、言うなれば、不安や悩み事などのストレスがいつまでも発散されずに溜まっていくことでもありますので、ストレスの性質をきちんと理解し、ストレスを溜め込むことなくうまく発散できれば、心身が疲弊するのを避けることが出来ます。
ちなみにこのアロスタティック負荷の対策として、ブルース・マキューアン氏は『ストレスに負けない脳』のなかで、
数十年にわたるか科学の研究の結果、ストレスから身を守るためには、睡眠と健康的な食事と習慣的な運動という、昔から言われてきたことが大事だということが明らかになっている。
としています。
また、「孤立はアロスタティック負荷を助長する大きな要因である」ため、家族や友達や教会など地域社会の支援や、「自分の人生は自分でコントロールできるという感覚」もストレスから身を守るのに欠かせないと言います。
さらにマキューアン氏は、
「脳や体の機能を十分理解したうえで、新しい生活習慣を徐々に恒久的に身につけるしかない」
「ストレスをよく理解することがいちばんの処方箋」
「食事、運動、お酒、睡眠などの生活習慣をうまくコントロールできるかどうかが、アロスタティック反応が私たちを守るかそれとも逆襲効果をもたらすかを左右しうる」
とも述べています。
つまり、
慢性ストレス → アロスタティック負荷 → 免疫力の低下
という悪い流れを変えていくには、喫煙や飲酒やオンラインゲームなどをストレス解消の手段として頼るのではなく、食事や運動、睡眠といった、日々の生活習慣自体を改善していくことが必要になってくるのです。
また神経科学者のダニエル・レヴィティン氏は、『サクセスフル・エイジング』のなかで、「アロスタティック負荷」についてふれ、ストレスを減らす方法として、認知行動療法や運動、瞑想、音楽を聴くこと、自然に身を浸すこと、友人と話したり社会的支援を受けたりすることを挙げています。
さらにレヴィティン氏は、アロスタシスは予測システムであるとし、アロスタシスの効果的な調節に「不確実性の低減」を挙げています。
なぜなら、脳の重要な仕事は予測することでもあるため、もし人生が大きな不確実性に満ちていたら、将来の出来事の結果を予測し、自らのニーズを満たす方法を事前に計画するのに代謝的にコストがかかり、「脳はそのリソースを簡単に使い果たしてしまい、結果的にアロスタティック負荷の有害な増加を招いて」しまうからです(2)。
つまり、「これからきっと良くないことが起こる」など、実際に起きるかどうか分からない心配事がずっと続いて、いつまでも安心出来ないでいると、これまでのパターンから勝手に危機を予測する脳は、いざという時に備えようとして、生体内の限りある資源を使い果たしてしまうのです。
すなわち、分かりやすさを優先してあえて大ざっぱに言うならば、日頃の生活において不安や心配事など、安心することが出来ない、「不確実であるがゆえの精神的なストレス」が多いと、その分、エネルギーを消耗してしまい、そのことで気づかないうちに体の中で燃料切れを起こしてしまうということなのです。
注釈
1 『ストレス脳』 アンデシュ・ハンセン 著 久山葉子 訳 新潮新書
HPA系の役割というのは脅威にさらされた時(ストレス)、あるいは脳が恐ろしいことが起きそうだと感じた時(不安)にエネルギーを筋肉へと動員することだ。では何百万年もの間、私たちにとって一番脅威だったものは何だろうか。どんな状況で、進化の賜物であるHPA系がエネルギーを動員したのか。それは月払いの支払いや仕事の締切、苦労の多い人生ゲームにおける心理・社会的ストレスではないはずだ。HPA系は私たちの命に対する脅威だったもの、つまり肉食動物、事故、感染症に対して進化したと考えるほうが理にかなっている。(181頁)
2 『サクセスフル・エイジング 老いない人生の作り方』 ダニエル・J・レヴィティン 著 俵晶子 訳 アルク
効果的な調節の一つは、不確実性の低減です。私たちの脳は、将来の出来事の結果を予測して、自らのニーズを予測し、そのニーズを満たす方法を事前に計画しようとします。もし人生が大きな不確実性に満ちていたら、これを行うには代謝的にコストがかかり、脳はそのリソースを簡単に使い果たして、結果的にアロスタティック負荷の有害な増加を招いてしまいます。
アロスタシスは予測システムであるため、初期の生活のストレス因子や極端な心的外傷から影響を受けたり、誤設定されたりすることがあります。安定した胎児期および幼児期の環境は、良好に機能するアロスタシスシステムにつながります。しかし、幼少期の不利な経験は、通常なら日々の正常な浮き沈みと見なされていいものに過剰反応する、もしくは停止するシステムをもたらしかねず、過敏症、回復力低下、時には激しい気分変動を生じさせます。すなわち、正常なアロスタティック調節に到達することのない生涯です。悪条件の中で育った人は、脅迫的でストレスの多い情報を含む長期記憶を持ちます。中立的な出来事に対してさえも、何か悪いことが起こるかもしれないというのが彼らの規定値の予測であり、これが彼らのストレス反応を作動させ、数多くの無害な状況に先立ってコルチゾールとアドレナリンが放出されてしまいます。システムレベルでは、彼らはHPA(視床下部‐脳下垂体‐副腎)軸――体のストレス反応システム――を調節していないと言ってもいいでしょう。(169-170頁)
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます(^^♪
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