日々の「呼吸」に注目することで、病気になりにくい、免疫力を高める生き方、始めてみませんか?
前回の記事では、ゆっくりとした腹式呼吸を習慣にすることは、日々のストレスケアにつながるということについて述べました。
「ゆっくりとした深い呼吸」に関して、科学ジャーナリストのキャロライン・ウィリアムズ氏は、『MOVE この自然な動きが脳と体に効く』(梅田智世 訳)のなかで、「10秒間に1回、息を吸って吐く呼吸は、呼吸に関わる体の動きを血流、血圧、血中酸素濃度に結びつける生理学的なスイートスポットを直撃」し、
「さらに、自律神経系のバランスを「活性化」から「沈静化」に切り替えるはたらきもある」
と述べています。

キャロライン・ウィリアムズ『MOVE この自然な動きが脳と体に効く』 インターシフト
またストレス反応と呼吸の関係について、氏が同書のなかで以下のように述べていることは注目に値します。
深くゆっくりとした呼吸は、パニック発作の鎮静方法として効き目が実証されており、酸素と二酸化炭素のバランスを取り戻し、闘争・逃走反応を解除して通常の興奮レベルに戻ってもいいと体に伝える効果がある。
キャロライン・ウィリアムズ『MOVE この自然な動きが脳と体に効く』 梅田智世 訳 215頁
ゆっくりした深い呼吸には、注意力のほか、心と体の両方で大きなくつろぎの感覚を得られるという利点もある。この感覚の出どころは、それぞれ別の、ただ互いに関係のある心身経路だ。この経路もまた、1分あたり6回という魔法の呼吸ペースに同調している。
その結びつきを生んでいるのが迷走神経だ。体内屈指の長さを誇る迷走神経は、脳幹の延髄(ベッツィンダー複合体があるのと同じ領域)を起点とし、そこから消化管の末端まで走る途中で心臓、肺、腸にも立ち寄る。
キャロライン・ウィリアムズ『MOVE この自然な動きが脳と体に効く』 梅田智世 訳 221頁
さらに、
副交感神経系の役割は、心配ごとが何もないときに、体を落ちついてリラックスした状態に保つことにある。にわかには信じがたい話だが、本来はこの状態こそが体の「初期設定」だと考えられている。
とし、
「闘争か逃走」が必要とされる状況が過ぎ去るや否や、迷走神経のはたらきにより、体は「休息と消化」の状態に戻される。
とも述べています(1)。
近年その機能について関心が持たれている「迷走神経」に関しては特に、
「5秒で息を吸い、5秒で吐く。この呼吸で、最大限の酸素を取り込めるだけでなく、体を落ちつかせる副交感神経の一部をなす迷走神経を刺激できる」
とし、迷走神経の活動レベルが高いと、「ストレス後に反応をオフにする能力が高い」と述べていることは注目に値します(2)。
ここでキャロライン・ウィリアムズ氏は、
「副交感神経系の役割は、心配ごとが何もないときに、体を落ちついてリラックスした状態に保つこと」にあり、
「掛け値なしに重要な問題や命を脅かす心配ごとがないかぎり、あなたは本来リラックスして落ちついた状態でいられるようにできている」
とし、さらに、
「迷走神経活動の活性を高くしたからといってストレスを受けなくなるわけではないが、柔軟性の高いシステムを持っていれば、ストレスのあとに速やかに通常の状態に戻ることができる」
とも述べていますが、大切なのは、本来は、呼吸は基本的に深くゆったりとしており、体は普段からリラックスしている状態が当たり前だということです。

呼吸は基本的に深くゆったりとしており、状態はリラックスしている。
一方、現代社会において問題となるのは、やらなければいけないことが多すぎて常に時間に追われる忙しい毎日を送っていたり、報道番組のお金や病気や戦争についての情報に接する度に不安になったりして本当に気持ちが休まることが少なく、意図的に呼吸を深めようとしないと、いつの間にか呼吸が浅くなってしまうことであると考えられるのです。
つまり、慢性的なストレスによって、自律神経のうち交感神経が優位な状態が長く続き、副交感神経へのスイッチが入りにくくなっているのです。そして「免疫力が低下する」とは、このような状態と関係してくると思われるのです。
注釈
1 『MOVE この自然な動きが脳と体に効く』 キャロライン・ウィリアムズ 著 梅田智世 訳 インターシフト
迷走神経を構成する繊維のおよそ80%は、体のさまざまな臓器から脳に戻り、そこで開かれるチャットルームに最新ニュースを提供している。残りの20%ほどは、副交感神経系の一部として反対方向へ走っている。副交感神経系の役割は、心配ごとが何もないときに、体を落ちついてリラックスした状態に保つことにある。にわかには信じがたい話だが、本来はこの状態こそが体の「初期設定」だと考えられている。遠い世界の物語のように聞こえるかもしれないが、掛け値なしに重要な問題や命を脅かす心配ごとがないかぎり、あなたは本来リラックスして落ちついた状態でいられるようにできているのだ。そして、重大事やおそろしいことが起きたときでさえ、「闘争か逃走」が必要とされる状況が過ぎ去るや否や、迷走神経のはたらきにより、体は「休息と消化」の状態に戻される。(222-223頁)
2 前掲書
迷走神経活動の高さ(高HRVで表される)には、作業記憶と集中力の向上、感情の安定、不安症やうつ病のリスクの低下と関連性があることがわかっている。高HRVの人は血糖値の制御能力や炎症を抑える能力も高い。これは、ストレス反応が全般的に小さいからではない。――迷走神経活動レベルが高いおかげで、ストレス後に反応をオフにする能力が高いからだ。ストレス反応は健康な反応であり、必要なものでもある。迷走神経活動の活性を高くしたからといってストレスを受けなくなるわけではないが、柔軟性の高いシステムを持っていれば、ストレスのあとに速やかに通常の状態に戻ることができる。(225頁)
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