セルフ・コンパッションはホルモンバランスを整え、副交感神経を優位にし、HRVも安定する。

セルフ・コンパッション

セルフ・コンパッションはホルモンバランスを整え、副交感神経を優位にし、HRVも安定する。

セルフ・コンパッションはホルモンバランスを整え、副交感神経を優位にし、HRVも安定する。

先日、セルフ・コンパッションが「社会的孤立」による健康への悪影響をやわらげるということについて書きました。

前述したように、社会的孤立によって、人との交流やつながりが断たれ、精神的なストレスが続いてしまうのであれば、そのことによって心身の健康を損なってしまう可能性が生じてきます。

たとえば、困難な状況に直面した際に分泌されるストレスホルモンの「コルチゾール」は、一時的であれば、代謝・血糖の調整や炎症・免疫反応の抑制といった役割を果たしてくれます。

 

しかしストレスが慢性化すると、

  • 免疫系の抑制

  • 脳機能への影響(記憶力の低下など)

  • 代謝異常

  • 心血管系への影響

  • 消化器系の不調

  • ホルモンバランスの乱れ

  • 骨や筋肉への影響

など、放出され続けるコルチゾールは、身体に対して悪影響を及ぼすといわれています。

反対に、人や動物と触れ合ったり、信頼を寄せあったり、感謝の気持ちが湧いたりする時には、「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。

 

このオキシトシンは、脳内で生成されるホルモンおよび神経伝達物質で、「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」とも呼ばれ、近年、身体的・心理的に多様な効果があると注目されています。

たとえば、

  • 結合形成: 母子間やパートナー間など、親密な関係構築を促進。

  • 信頼感: 人間関係における信頼感を高める。

  • ストレス軽減: 抗ストレス効果があり、コルチゾールなどのストレスホルモンを減少させる。

  • 不安軽減: 社会的不安を和らげる効果がある。

  • 共感性の向上: 他者の感情を理解し共感する能力を高める。

などの効能があるとされています。

 

セルフコンパッションでオキシトシンが増え、コルチゾールが減る。

セルフコンパッションでオキシトシンが増え、コルチゾールが減る。

特に注目なのは、オキシトシンの抗ストレス効果です。

先程、ストレスホルモンである「コルチゾール」について言及しましたが、最近の研究では、リラックスや心理的安全感に関わるオキシトシンが、ストレス反応を和らげ、コルチゾールの分泌を抑制する仕組みが明らかになってきているといいます。

なお、クリスティン・ネフ博士はこの「オキシトシン」について、前出の『セルフ・コンパッション』のなかで、

 

私たちは自分自身の苦痛をなだめるとき、哺乳類の養育システムを利用している。このシステムには、重要な機能として、オキシトシンの分泌が引き起こす役目がある。研究者たちがオキシトシンを「愛と絆のホルモン」と呼ぶのは、それが社会的な関係性において重要な役割を果たすからである。

オキシトシンは、恐怖と不安を軽減し、ストレスと関係のある血圧とコルチゾールの上昇を抑えることもできる。

 オキシトシンは、母親が授乳するとき、親が自分の幼い子どもたちと接するとき、人を優しく抱擁したり、人に優しく抱擁されたりするときなど、さまざまな社会的状況で分泌される。

 

と述べています。

そして研究結果から、セルフ・コンパッションの実践によって「オキシトシン」の分泌が促されることを示唆しています。

ただし、セルフ・コンパッションを実践すると、親密な人と触れ合うのと同じように、オキシトシン量がただちに増加するわけではないため、その点については注意が必要なようです。

しかし、社会的な孤立によって慢性ストレス状態にある場合、セルフコンパッションの実践によって、ホルモンバランスが整い、健康状態が改善へと向かうことは十分考えられるのです。

  • 社会的孤立 → ストレスホルモンであるコルチゾールの値が上昇
  • セルフコンパッション → オキシトシンが増え、コルチゾールが減る

 

セルフコンパッションでオキシトシンを増やすための方法

セルフコンパッションでオキシトシンを増やすための方法

1. 自分にやさしい言葉をかける(セルフトーク)

ネガティブな自己批判の代わりに、温かく肯定的な言葉を意識的に使うようにする。

例:「今はつらいけど、私は最善を尽くしている」「こんな時こそ、私に優しくしよう」

2. 自分自身に触れる(セルフ・タッチ)

胸に手を当てる、腕を優しく撫でる、ハグをするなどの自分へのタッチは、脳に「安全・つながり」の信号を送る。

3. マインドフルネスを取り入れる

「今ここ」に意識を向け、判断せずに自分の感情や思考を受け入れることで、自分を穏やかに見守る姿勢が育つ。

4. 自分を他者のように扱う

親しい友人にするように、自分にもいたわりや励ましを与える態度を意識的に実践する。

5. ジャーナリング(セルフ・コンパッション日記)

日々の感情や出来事について、非判断的かつ思いやりを持って書き出す習慣は、自己受容を深めるのに効果的。

 

セルフコンパッションで副交感神経が優位になり、心拍変動(HRV)が安定する。

セルフコンパッションで副交感神経が優位になり、心拍変動(HRV)が安定する。

また研究によれば、セルフ・コンパッションを高めると副交感神経が優位になり、オキシトシンの分泌が促されるだけではなく、心臓における心拍変動(HRV)も安定するとされています。(1)

心拍変動(以下、HRV)は、「社会的に孤立することによるストレス」への処方箋である「安心感」と関係しています。

 

この「HRV」(heart rate variability)とは、連続する心拍間の時間的な変動を示す指標であり、この変動が高いほど自律神経のバランスが良く、ストレスに強い体であるとされています。

  • 交感神経(ストレス反応、「闘争・逃走」状態)が優位な時はHRVが低下

  • 副交感神経(休息・消化、「休養・回復」状態)が優位な時はHRVが上昇

たとえば、ゆっくりとした呼吸を心臓に意識を向けながら行うことで、副交感神経が優位となり、リラックス反応が引き出されます。

 

逆にHRVが低い状態は、ストレスや不安、うつ症状とも関連があり、慢性的な心身の緊張状態を意味します。

もしHRVが整えば、感情の起伏が穏やかになり、怒りや恐れといった強い感情に巻き込まれることが少なくなるとされています。

すなわち、HRVに注目することは、孤独感だけではなく、事故やトラブル、人間関係など、日常生活で生じる様々な精神的ストレスを軽減していくために、大変有効であるといえます。

 

この「HRV」について、たとえばモリー・マルーフ医学博士は、『脳と身体を最適化せよ!』(矢島麻里子 訳)のなかで、

 ストレスを評価し、メンタルの状態を把握するのに最適な方法のひとつが心拍変動(HRV)の測定だ。

 HRVは、心拍間隔、心拍間隔の変動、心拍数が上昇後どれだけ早く正常に戻るかを示す指標だ。

 心拍数が上昇した後、平常に戻るのに時間がかかる場合、HRVが低いことを示す。これは慢性ストレスを抱え、適応力が低く、レジリエンスが低いサインとなる。

 一方、心拍数がすぐに平常に戻る場合は、HRVが高いことを示し、健康状態が良好で、適応力や身体的レジリエンス、ストレスに対するレジリエンスがともに高いサインとなる。

(373頁)

と説明しています。

 

また「心拍変動(HRV)は迷走神経によってコントロールされて」おり、
迷走神経を刺激して活性度を上げれば(迷走神経を鍛えれば)、HRVを高め、レジリエンスを向上させ、メンタルの回復を促すことができる」と述べています(1)。

ちなみに迷走神経は副交感神経系の主要な構成要素であり、「休息・消化」モードを担当するため、ストレス緩和や自律神経系のバランスにおいて重要な役割を果たしています。

 

 迷走神経の活性度が高い=HRVが高い=心拍数が低い=回復力がある、レジリエンスが高い
 迷走神経の活性度が低い=HRVが低い=心拍数が高い=回復力が乏しい、レジリエンスが低い

(モリー・マルーフ『脳と身体を最適化せよ!』 矢島麻里子 訳 375頁)

 

なお、ポリヴェーガル理論の提唱者であるステファン・ポージェス博士によれば、副交感神経には、進化上古い「背側迷走神経系」と進化上新しい「腹側迷走神経系」の二種類があるといいます。

そして「安心安全」「安心感」に関わるのは、ポージェス博士の著作を翻訳している花丘ちぐさ氏によれば、「腹側迷走神経系」のほうだといいます。

 

 腹側迷走神経系は、お互いに「安全である」という「合図」を出し合うように働きますし、また、「安全である」と感じるときに、さらに活発に働くようになります。安全と絆は、哺乳類が健康を維持しながら生きていくために絶対に必要なもので、腹側迷走神経系は、「安全と絆」の神経系と言っても過言ではありません。

(花丘ちぐさ『その生きづらさ、発達性トラウマ?』 72頁)

 

そして、前述したように、セルフ・コンパッションを高めると副交感神経が優位になり、心拍変動(HRV)が安定することがいくつかの研究から示唆されているのです。

セルフ・コンパッションを高めると副交感神経が優位になり、心拍変動(HRV)が安定する

注釈

(1) Rockliff, H., Gilbert, P., McEwan, K., Lightman, S., & Glover, D. 2008、Neff, K. D., & Germer, C. K. 2013

(2) 『脳と身体を最適化せよ! 「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』 モリー・マルーフ  著 矢島麻里子 訳 ダイヤモンド社

 心拍変動(HRV)は迷走神経によってコントロールされている。

迷走神経は脳幹から腹部まで伸びる脳神経で、その間の臓器に広く分布している。迷走神経は、心臓や肺、眼、腺、腸から脳へ、脳からこれらの臓器へと信号を運ぶことによって情報を伝えている。

また、身体の臓器系に関する知覚情報を中枢神経系に伝え、安静時心拍数に影響を与える。

したがって、迷走神経を刺激して活性度を上げれば(迷走神経を鍛えれば)、HRVを高め、レジリエンスを向上させ、メンタルの回復を促すことができる。

迷走神経は心拍数とHRVの調整役を担うため、迷走神経の活性度が高い状態(迷走神経が健康で適応力のある状態)は、レジリエンスが備わっているサインだ。

ここでは次のような関係が成り立つ。

迷走神経の活性度が高い=HRVが高い=心拍数が低い=回復力がある、レジリエンスが高い

迷走神経の活性度が低い=HRVが低い=心拍数が高い=回復力が乏しい、レジリエンスが低い

HRV、迷走神経、副交感神経のこうした関係により、定期的に迷走神経を刺激すれば、心拍数を下げ、その結果HRVを高めることで、回復モードを引き出せる。

(374‐375頁)

(3)

Rockliff, H., Gilbert, P., McEwan, K., Lightman, S., & Glover, D. 2008、Neff, K. D., & Germer, C. K. 2013

 

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます💛💛💛

 

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