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毎年、夏の暑さが耐えられないものになっていくことにどこか不安を感じませんか? 今回の記事では『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』(ロブ・ダン 著 今西康子 訳 白揚社)を読んだ感想を述べつつ、高温多湿の日本や温暖化の世界を生き延びるにはどうすれば良いのかを考えていきたいと思います。
ここ数年の間に、まだ五月や六月なのに気温は30℃を超えるようになり、七月や八月は40℃に迫るようになってきました。高温多湿の日本に、さらに温暖化の影響が加わると、昔のように「エアコンつけずに我慢」で乗り切ることは難しく、不快感やダルさを通り越した、深刻な体調不良や熱中症による命の危険も想定して生活しなければならなくなります。
しかも気温上昇による「細菌性」の食中毒・感染症の増加や、豪雨による洪水や河川の氾濫などにどう備えるのかも考えなければならないように思います。
デジタル資本主義社会において、自然環境を気にかけることなく、毎日スマホの画面を眺めながら、もっとお金を稼ぐことばかりを考えていたとしても、危険な暑さは、もはやスクリーン越しの対岸の火事ではなく、確かな体感として伝わってきます。あまりに暑くて外出することが困難になれば、QOL(生活の質)も明らかに低下してしまいます。
では、どうすればこのような危機に対応できるのでしょうか? 私自身、自然から、自然界の法則、生物の諸法則を学ぶことはとても有効だと思うのです。

『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』 ロブ・ダン 著 今西康子 訳 白揚社
生態学者のロブ・ダン氏による『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』(原題 『A NATURAL HISTORY OF THE FUTURE』)は、生物の諸法則(アーウィンの法則、ニッチの法則、回廊の法則、多様性‐安定性の法則など)について言及されているのですが、この本は、温暖化した世界をどう生き延びるかについて、様々な視座や示唆を与えてくれます。
これら諸法則については、実際に本書を手に取ることで学んで頂きたいと思うのですが、印象的だったのは、脳の大きな鳥である「カラス」の存在です。カラスは自らの行動を、これまでと同じやり方ではなく、状況に応じて柔軟に変容させるといいます。つまりカラスは変わりやすい環境下での生存戦略に長けているのです(1)。
カラスが創意工夫の才を発揮して、新たな環境条件に対処するとき、彼らは餌を探し当てる新たな方法を見つけ、それまで食べたことのない餌を食べる。要するに、カラスは、餌を多様化しその幅を広げることによって、ふだん餌にしている生物種が少なくなっても、何か別の種で補えるようにしているのである。
われわれ人間もやはり、降りかかるリスクを軽減するためには、農地であれ、自らの体であれ、自然界の多様性を巧みに利用する必要があるだろう。それほど創意に富む知能をもっていなくても、それならばできる。ロブ・ダン『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』 今西康子 訳 186頁
著者のロブ・ダン氏は「終章」で言いいます、
「この惑星で少しでも長く生き存えるには、何よりもまず慎ましやかになること。つまり、生物の諸法則に注意を払い、それに逆らうのではなく、それと手を組んでいくことだ」
「温室効果ガスの排出量をできるだけ速やかに減らして、ヒトのニッチの範囲内に保たれている気候条件の場所をできるだけ多く地球上に残す必要がある。人類が現在依存している生物種や生態系、そして、将来依存することになるかもしれない生物種や生態系を守っていく方法を見つける必要がある」
と。
この『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』を読んでいる最中、より過酷な方へと変化していく環境に対して、生物界の法則を参考にしながら、ヒトという種はどのように柔軟に「ニッチ」を見つけて適応していくかを考えさせられるという点において、この本は全人類必読の一冊であると感じました。
以下、印象的だった箇所の引用です。

学校では自然界の法則をいくつか教わる。重力の法則や、慣性の法則、エントロピーの法則などである。しかし、自然界の法則はこれだけにとどまらない。ライターのジョナサン・ワイナーが述べているように、チャールズ・ダーウィンをはじめとする生物学者たちは、「ニュートンの運動法則と同じように、単純で普遍的な地上の運動法則」を、つまり、細胞、身体、生態系、そして頭脳の運動法則を発見した。これから訪れる未来を理解しようとするならば、まず何よりも、こうした生物界の諸法則をしっかりと認識する必要がある。本書は、生物界の諸法則と、そこから導き出される自然界の未来の姿について述べた本だ。
ロブ・ダン『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』 今西康子 訳 12頁
未来を思い描くとき、われわれはたいてい、テクノロジーの生態系におさまっている自分たちを、ロボットや各種装置やバーチャルリアリティから成る生態系におさまっている自分たちを想像する。未来は、輝けるテクノロジーの世界だ。未来は、デジタル化されたイチとゼロの世界、電気エネルギーと目に見えないネットワーク接続に支配された世界だ。自動化や人工知能に依存する未来の危うさについては、これまで数多くの書物が指摘してきた。未来の世界がどんなものかを考えるとき、自然はただの付け足しにすぎず、たとえば、開かない窓の向こうに置かれた遺伝子組換え植物の鉢植えだったりする。未来を描いたものの中には、遠く離れた農場(世話するのはロボット)や屋内菜園の生物を別にすると、ヒト以外の生物はほとんど出てこない。
同 11頁
われわれは、人間だけが生き物の主役であるような未来を思い描いている。全体として見ると、われわれは生物界を単純化して、人間にとって都合のいい方向に向けようとしている。生物界を人間の力の及ぶ範囲内に抑え込んで、見えなくしてしまおうとさえしている。言ってみれば、人間の文明とその他の生き物との間に、堤防を築いているのである。しかし、堤防の構築は失策でしかない。なぜなら、生き物を寄せつけずにおくことはそもそも不可能であって、そんなことを試みれば、自らが禍を受けるはめになるからである。自然界で人間が占める位置に照らしても、また、自然界のルールや、人間と他の生物の関係のルールに照らしても、それは失策と言える。
同 11ー12頁
ヒトの体は、かなり稀有な一連の気候条件を利用するように進化したのだが、われわれはそれを普通だと思っている。こうした気候条件を当たり前と思いがちだが、実のところ、地球の温暖化が進むにつれて、ヒトの体は周囲の世界とうまく合わなくなっていく。われわれが世界を変えれば変えるほど、人類の繁栄に必要な気候条件と、実際に生きている気候条件との乖離がますます激しくなっていくのだ。それに対して、遠い過去の気温や大気その他の環境条件に対する適応戦略を進化させた生物種や、適応するのではなく、好適な条件が保たれている小さな隔離地を見つけることによって持ちこたえた生物種はどうかというと、地球温暖化や環境汚染が進んで、ヒトの耐性の限界を超え、ヒトのニーズが満たされなくなっても生き続けることができ、場合によっては繁栄する可能性さえもっているのだ。
同 294頁
遠い将来、人類はきっと、細菌のように生命活動を一時停止する方法を探り当てるに違いない、と思いたくなる。しかし、そんなふうに考えるのは傲慢というものだ。昔から人間はつい思い上がって、自分たちだけは生物の諸法則から免れると信じてしまう。しかし、この惑星で少しでも長く生き存えるには、何よりもまず慎ましやかになること。つまり、生物の諸法則に注意を払い、それに逆らうのではなく、それと手を組んでいくことだ。
同 306頁
☆☆☆
注釈
1 カラスの生存戦略は、「不確実で変わりやすい環境(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」に最も強いデザインになっています。
生物学的に見れば、環境の変化に対するアプローチには大きく分けて2つの戦略があります。特定の環境(ニッチ)に完璧に適応する「専門化(スペシャリスト)」と、変化に合わせて何でもこなす「汎用化(ジェネラリスト)」です。カラスは後者のジェネラリストとしての能力を極限まで高めた存在と言えます。
彼らが「変わりやすい環境」を生き抜くために実践している具体的な生存戦略は、これからの激変期を生きる私たち人間にとっても、非常に深い示唆に富んでいます。

カラスの知恵と生存戦略
1. 食性の圧倒的な多様性(ポートフォリオ戦略)
カラスは「これしか食べない」というこだわりがありません。昆虫、果実、種子、小動物、そして人間が出す生ゴミまで、その時々の環境で最も手に入りやすいものを柔軟に選択します。
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危機の回避: 温暖化や環境破壊によって特定の生態系が崩れても、カラスは別の食糧源に即座にスイッチできるため、社会でいう「リスク分散(ポートフォリオ)」が最初からシステムとして組み込まれています。
2. 高い情報伝達能力と「集合知」(ネットワークの活用)
カラスは単独で生きているように見えて、高度な社会性ネットワークを持っています。
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情報のアップデート: 新しい餌場の出現や、逆に危険な場所(駆除対策が取られた場所など)の情報は、群れの仲間や次世代へと驚くべきスピードで共有・伝達されます。環境の変化を「個体」だけでなく「集団(ネットワーク)」の知恵として蓄積していくため、変化への対応にタイムラグがありません。
3. 「遊び」という名のシミュレーション(余白の保持)
カラスはよく、滑り台を滑ったり、風に乗ってアクロバット飛行をしたり、人間をからかったりする「遊び」の行動を見せます。
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適応の余白: 生物学において、動物の「遊び」は単なる暇つぶしではなく、脳の発達や、「想定外の事態に直面したときの引き出し(選択肢)を増やすためのシミュレーション」であると考えられています。生存に直結しない無駄に見える行動(余白)こそが、環境激変時のレジリエンス(復元力)を生み出しているのです。
4. 相手や状況によって「ツールの使い方」を変える(メタ認知と柔軟性)
カラス(特にニューカレドニアガラスなど)が道具を使うことは有名ですが、彼らは「一度覚えた道具をただ使い回す」のではありません。
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物理的な状況への適応: 穴の奥にある餌を引っ張り出す際、手元にある針金の長さや曲がり具合を観察し、「今の状況に合わせて、自分で針金の先端をフック状に曲げてから使う」という行動を取ります。
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試行錯誤の応用: 水位が低くてクチバシが届かない容器から肉片を取り出すために、近くにある石を中に落として水位を上げる(エソップ寓話のような行動)実験でも、カラスは「重い石(水位がよく上がる)」と「軽い石(あまり上がらない)」を即座に見分け、効率の良い石だけを選んで投入します。
5. 他者の「視線」や「意図」を読んで行動を変える(社会性バイアスへの適応)
カラスは、食べ物を隠す(貯蔵する)習性がありますが、このときの行動の変化は極めて心理学的です。
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見られているときの「騙し行為」: 他のカラスが自分を見ていることに気づくと、カラスは「食べ物を隠すフリ」だけをして、実際には別の場所に隠したり、相手の死角に回り込んでから本番の貯蔵を行ったりします。
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過去の経験の反映: 面白いことに、この「騙し行為」を熱心に行うのは、「過去に他のカラスの分け前を盗んだ経験があるカラス」に多いことが分かっています。「自分が見ているときに盗んだのだから、あいつらも自分のものを盗むに違いない(他者の意図の推測)」という認知の働きに基づいて、行動を最適化しているのです。
6. 人間の「社会システム」を利用して行動を変える
都市部に住むハシボソガラスなどは、人間のインフラや行動パターンを完全に観察・学習しています。
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信号機と車の利用: 硬いクルミを割るために、走行中の車のタイヤの前にクルミを落とす行動が知られていますが、彼らは単に車に轢かせるだけでなく、「歩行者信号が青になったタイミングで、安全にクルミを回収しに行く」という、人間の交通ルールまで視野に入れた時間差の行動を選択します。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます💛💛💛

























