不安の正体とは「正体」が分からないことだった。カラクリや仕組みが分かれば、不安はやわらぐ。

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不安の正体とは「正体」が分からないことだった。カラクリや仕組みが分かれば、不安はやわらぐ。

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「理由は分からないけれど不安」の正体とは?

「理由は分からないけれど、なんとなく不安になる」。そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。将来のことが心配になる。体のちょっとした変化が気になる。仕事や人間関係について、まだ何も起きていないのに悪い方向へ考えてしまう。マスメディアが発信する経済についてのニュースやSNSを見ているうちに、世の中そのものが不安に感じられてくる。

こうしたとき、私たちはつい「どうすれば不安をなくせるだろう?」と考えます。けれども、もしかすると問いを少し変えたほうがいいのかもしれません。「どうすれば不安をなくせるのか?」ではなく、「私は、いったい何が分からないから不安なのだろう?」「不安にさせるものの正体やカラクリは何だろう?」と考えてみるのです。すると、不安についての見え方が大きく変わってきます。

 

不安なのは「悪いことが起きている」からとは限らない

不安を感じると、「何か悪いことが起きているに違いない」と思ってしまいます。しかし、不安という感情と、実際に危険なことが起きていることは、必ずしも同じではありません。たとえば、外出した後で家の鍵をかけてきただろうかと不安になることがあります。その際は、家に戻ってきちんと鍵をかけていたことを確認すれば、不安は解消されます。しかし確認できなければ、泥棒に入られないだろうかと不安になるわけです。

もしくは暗い部屋で何かの影が動いたとします。「何かいる!」と思えば、心臓がドキッとして、身体も緊張するでしょう。ところが、電気をつけてみたら、そこにあったのは椅子に掛けていた洋服だった。その瞬間、「ああ、なんだ。洋服だったのか」と安心します。

では、この例えの場合、何が変わったのでしょうか。洋服そのものが変わったわけではありません。「正体が分からなかったものの正体が分かった」のです。つまり、最初に怖かったのは「洋服」ではありません。「何なのか分からないもの」だったのです。もちろん、すべての不安が「未知」だけで説明できるわけではありません。現実に危険が迫っている場合もありますし、身体的・心理的な要因によって不安が生じることもあります。

それでも、「何が起きているのか分からない」という状態が、不安を増幅させる大きな要因になることはあります。だからこそ、不安を感じたときには、「お化け屋敷を目の前にして私は何を恐れているのだろう?」と問い直してみる価値があります。

 

「分からない」は、脳にとって大きな負荷になる

人間は、これから何が起こるのかを予測しながら生きています。「この道を歩けば目的地に着く」「この方法なら仕事を進められる」「この症状なら、こういう可能性が考えられる」「この人にこう話せば、こういう反応が返ってくるかもしれない」。

このように、私たちは日常的に「原因と結果」や「仕組み」を推測しています。ところが、その予測ができなくなると、状況をコントロールする感覚が弱くなります。「何が起こるか分からない」「なぜこんなことになっているのか分からない」「どうすればいいのか分からない」という状態です。すると、脳は足りない情報を補おうとします。

そして、分からない部分を最悪のシナリオで埋めてしまうことがあります。「もしかしたら、もっと悪くなるかもしれない」「このまま取り返しがつかなくなるかもしれない」「自分にはどうすることもできないかもしれない」。こうして、まだ起きていない未来までが、現在の不安として感じられるようになります。

 

不安が強いと「不安の証拠」ばかり探してしまう

ここで、脳の注意の仕組みも関係してきます。私たちは、周囲にあるすべての情報を同じように意識しているわけではありません。膨大な情報の中から、現在の自分にとって重要だと判断された情報に注意が向きます。先日の記事で述べた脳幹の網様体賦活系(RAS)も、こうした覚醒や注意の調整に関わる神経系の一部です。

そのため、不安や警戒が強くなっているときには、脅威に関連する情報へ注意が向きやすくなることがあります。たとえば、「体調が悪いかもしれない」と強く心配しているとします。普段なら気にしなかった身体の小さな感覚が、急に気になってきます。「今日は少し疲れている」「なんとなく胸が重い」「昨日より眠りが浅かった」「この症状は病気のサインかもしれない」。そうすると、最初にあった「不安」という感情が、さらに新しい情報を集め、その情報がまた不安を強めるという循環が生まれることがあります。

つまり、不安になる→危険に注意が向く→危険に見える情報が目につく→『やっぱり危ない』と感じる→さらに不安になるというループです。だから、不安が強いときに「もっと考えれば安心できる」とは限りません。むしろ、不安な状態のまま考え続けることで、不安を強化してしまうこともあります。

不安と安心の間に「自分を整える時間」を置く

だからこそ、不安と安心の間に「自分を整える時間」を置くことが大切になります。不安になった瞬間、ただ闇雲に「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせる必要もありません。「こんなことで不安になる自分はダメだ」と否定する必要もありません。まず、一度立ち止まります。そして、ゆっくり呼吸します。呼吸そのものを感じてみます。息を吸っている。息を吐いている。胸やお腹が動いている。身体が椅子や床に支えられている。今、自分はここにいる。

このように、意識を「まだ起きていない未来」から「いま起きている身体の感覚」へ戻していきます。これは、不安を無理やり消すための行為ではありません。不安に反応する前に、自分を整えるための時間です。この「」が、実はとても大切なのです。

 

ゆっくりした呼吸が「不安との距離」をつくる

不安が強いときには、私たちは感情と自分を一体化させやすくなります。「不安だ」という感覚から、「私はダメなのかもしれない」「きっと悪いことが起きる」「もうどうにもならない」というところまで、一気に飛躍してしまいます。そこで、呼吸に意識を向け、「私はいま、不安を感じている」と気づきます。これは、「私は不安そのものだ」という状態から、「私は不安を感じている自分に気づいている」という状態への変化です。ほんの小さな違いに見えるかもしれません。しかし、(メタ認知という)この違いによって、感情と自分の間に少し距離ができます。その距離があるからこそ、「そもそも、私は何を不安に感じているのだろう?」と問い直すことができます。

「私は何が分からないのだろう?」と問いかける

そこで大切になるのが、「私は何が分からないのだろう?」という問いです。たとえば、「将来が不安」なら、「将来の何が分からないのだろう?」と掘り下げてみます。

「仕事がどうなるか分からない」のであれば、「仕事の何が分からないのか?」「収入なのか?」「自分の能力なのか?」「人間関係なのか?」「環境の変化なのか?」と具体化できます。「健康が不安」なら、「身体の何が分からないのか?」「この症状の原因が分からないのか?」「どう対処すればいいのか分からないのか?」「どこまで心配すればいいのか分からないのか?」と分解できます。

このように不安を細かくしていくと、「漠然とした不安」だったものが、「まだ分かっていない具体的な問題」へと変わっていきます。そして、具体的な問題になれば、調べることもできます。相談することもできます。専門家の助けを借りることもできます。準備することもできます。あるいは、「今はまだ分からない」ということ自体を受け入れることもできます。

 

「知識」ではなく「仕組み」が分かると、不安は変わる

ここで重要なのが、「知識」よりもさらに一歩進んだ「仕組みの理解」です。以前、「仕組み」が分かると生きやすくなると述べたことがありましたが、たとえば、「なぜ自分は緊張すると呼吸が浅くなるのか?」「なぜ眠れないと不安が強くなるのか?」「なぜSNSを見続けると気持ちが落ち着かなくなるのか?」「なぜ人から否定されると、必要以上に自分を責めてしまうのか?」など、こうした「なぜ?」を理解していくようにする。すると、「自分がおかしくなった」という解釈から、「こういう条件が重なると、こういう反応が起こりやすいのだ」という理解へ変わります。これは非常に大きな違いです。自分を責める対象だったものが、自分を理解するための情報に変わるからです。

 

安心とは「何も問題が起こらないこと」ではない

そして、安心についても考えてみる必要があります。私たちはつい、「安心=何も問題が起こらないこと」だと思ってしまいます。しかし、現実の人生では、何も問題が起こらない状態を完全に保証することはできません。病気になることもあります。仕事が変わることもあります。人間関係が変化することもあります。予想外の出来事も起こります。それでも、人は安心して生きることができます。なぜでしょうか。それは、「何かが起きても、自分なりに理解し、考え、選択し、対処できる」という感覚があるからです。

つまり安心とは、問題が存在しない状態ではなく、「問題と適切に関係できる状態」とも考えられます。このようなしなやかさは「レジリエンス」ともいわれます。「何が起きても絶対に大丈夫」という保証ではありません。「何が起きても、そのときに考えてみよう」という感覚です。この意味で、安心とは「未来が完全に保証されていること」ではなく、「未来に対して、自分なりに関わっていける」という感覚なのかもしれません。

 

不安を「敵」ではなく「問い」に変える

だから、何となく不安になったときには、「不安だから、どうにかしなければ」と考えるだけではなく、「この不安は、私に何が分からないと伝えているのだろう?」と問いかけてみることができます。大切なのは不安を敵にしないことです。不安は、場合によっては「情報が不足していますよ」というサインとして扱うことができます。

そして、「何が分からないのか?」が分かれば、「何を調べればいいのか?」が見えてきます。「何を調べればいいのか?」が分かれば、「誰に相談すればいいのか?」が見えてきます。「誰に相談すればいいのか?」が分かれば、「自分に何ができるのか?」が見えてきます。

このことについて、たとえば、「お金」が無いということについて不安を感じるのであれば、「ラクしてすぐに稼げる」といった情報に飛びついたり、「老後の資金は2000万円必要」といった経済学者の言うことを鵜呑みにする前に、「お金」という価値はどういう意味を持つのかといったことや、資本主義のカラクリ、銀行の仕組みなどについて自分で学んでみるようにする。そうすればお金がたくさん欲しいと思うことよりも先に、生きていくためには仏教やミニマリズム的な生き方を実践したり、生態系や地球環境を守ったりすることのほうが大事だと気づくかもしれません。

そして、このように自分にできること(仕組みやカラクリについて自分で調べたり学んだりする)が見えてくると、少しずつ「不安の正体に自分で関われる」という感覚が戻ってきます。

 

不安から安心へ――その間に「呼吸」がある

ここまでを一つの流れにまとめると、とてもシンプルです。

不安を感じる。何が分からないのかに気づく。ゆっくり呼吸する。いまの身体と感情を観察する。不安から少し距離を取る。「何が分からないのか?」を具体化する。カラクリや仕組みを理解する。自分にできることが見えてくる。そして、安心する。

ここで、呼吸は「不安を消す魔法」ではありません。呼吸によって問題そのものがなくなるわけでもありません。そうではなく、不安に飲み込まれたまま考え続ける状態から、一度立ち止まって、自分と現実を見つめ直すための橋渡しとして、ゆっくりした呼吸を使うのです。

だから、「不安をなくす」のではなく、「不安と安心の間に、呼吸する時間をつくる」と考えることができます。不安になったら、すぐに結論を出さなくてもいい。まず呼吸する。身体を感じる。自分が何を恐れているのかを観察する。そして、「私は何が分からないのだろう?」と問いかける。そのうえで、必要な情報を集め、仕組みを理解し、自分にできることを探していく。そうすると、最初は得体の知れなかった不安が、少しずつ「理解できるもの」へと変わっていきます。

本当の安心とは、「分からなくても向き合える」こと

不安の反対は、何も感じないことではありません。何も考えないことでもありません。「絶対に悪いことは起こらない」と思い込むことでもありません。むしろ安心とは、「分からないことがあっても、怖れることなく、落ち着いて向き合える」という感覚なのではないでしょうか。「分からない」から「分かる」へ。「予測できない」から「少し予測できる」へ。「どうしていいか分からない」から「自分にできることがある」へ。この変化が、安心を生み出します。

もし今、あなたが何かに不安を感じているのなら、無理にポジティブになろうとしなくても大丈夫です。まず、ゆっくり息を吐いてみてください。そして、「私は、いったい何が分からないから不安なのだろう?」と問いかけてみる。その答えがすぐに出なくても構いません。「分からない」ということが分かっただけでも、一歩前進です。そこから少しずつ、情報を集め、仕組みを理解し、自分にできることを見つけていく。

不安をなくすことよりも、不安の正体を知ること。そして、その正体を知るために、まず自分を整えること。不安と安心の間に、ゆっくり呼吸する時間をつくる。そこから、私たちは「怖さ」ではなく「理解」を通して、もう一度世界と関係し直すことができるのかもしれません。

そして、最後に残るのは、「何が起きても絶対に大丈夫」という根拠のない安心ではありません。もっと静かで、現実的な安心です。

「分からないことがあっても、私は立ち止まり、呼吸し、理解し、選択していける。」

この感覚こそが、私たちの内側にある、本当の意味での「安心」の一つなのではないでしょうか。

この記事のポイント

1. 不安の正体は「危険」そのものではなく「何が起きているか分からない状態(未知)」

不安を感じているとき、実際には大きな危険が迫っているとは限りません。脳は「原因や仕組みが予測できない(分からない)」状態に強い負荷を感じるため、不足した情報を埋めようとして最悪のシナリオを描いたり、注意の仕組み(RASなど)によって脅威や危険と思われる情報ばかりを集めて不安を増幅させてしまいます。

2. 不安と安心の間に「呼吸」を置き、自動的な反応から「観察」へ切り替える

不安に飲み込まれたまま焦って対処しようとすると、かえって不安のループが深まります。そこで一度立ち止まり、ゆっくりとした呼吸に意識を向けて身体感覚に戻ることで、「私は不安そのものだ」という状態から「いま不安を感じている自分がいる」というメタ認知(観察)の状態へ切り替え、感情との間に冷静な距離を作ることができます。

3. 「何が分からないのか?」を分解・理解し、自分で関われる感覚(本当の安心)を取り戻す

「将来が不安」といった漠然とした恐れを「何が分からないのか?」と細かく分解し、その裏にある「カラクリや仕組み」を学ぶことで、不安は「対処可能な具体的課題」へと変わります。本当の安心とは「何の問題も起きない保証」ではなく、「分からないことがあっても立ち止まり、理解し、自分なりの選択をして関わっていける」というしなやかな感覚(レジリエンス)のことです。

 

 

補足記事|RASの機能と不安の関係――なぜ不安になると「危険な情報」ばかり目につくのか?

不安になると、なぜ「不安になる情報」ばかり見つかるのか?

「最近、体調が悪いかもしれない」と心配し始めたら、身体のちょっとした違和感ばかり気になるようになった。「仕事がうまくいかないかもしれない」と思ったら、上司の何気ない一言まで否定的に聞こえてくる。「将来が不安だ」と感じていると、ニュースやSNSに流れてくる暗い話題ばかりが目に入ってくる。このような経験は、決して珍しいものではありません。

では、なぜ私たちは、不安になると「不安を裏付けるような情報」ばかりを見つけてしまうのでしょうか。

この現象を考えるうえで、一つの手がかりになるのが、先日の記事で取り上げた脳の覚醒や注意に関わる網様体賦活系(RAS:Reticular Activating System)です。

ただし、最初に大切なことがあります。RASを「欲しい情報を自動的に探してくれる脳の検索エンジン」と説明することがありますが、これは分かりやすい比喩であって、神経科学的にはかなり単純化されています。

RASは単一の装置ではなく、脳幹の網様体を中心とする複雑な神経ネットワークで、覚醒・意識水準・注意などの調節に関わっています。また、不安時の注意の偏りをRASだけで説明することもできません。扁桃体、前頭前野、視床、青斑核・ノルアドレナリン系など、複数のシステムが相互作用しています。

それを踏まえたうえでRASを理解すると、先ほどの記事で扱った「不安の正体が分からない」というテーマが、さらに立体的に見えてきます。

RASの基本的な役割――脳を「起きている状態」に保つ

RASを理解するためには、まず「覚醒」という言葉が重要になります。

私たちの脳には、眠っている状態から目覚めた状態へ移行し、外界からの刺激に反応できる状態を維持するための神経系があります。その中心的な仕組みの一つが、脳幹の網様体を含む上行性網様体賦活系(ascending reticular activating system)です。

簡単に言えば、RASは「今、周囲に注意を向けられる状態なのか」「どの程度覚醒しているのか」という、脳の基本的な状態調節に関係しています。

たとえば、深い眠りから目覚めた直後と、危険を感じて周囲を警戒しているときでは、脳の状態が大きく異なります。危険を感じたときには覚醒度が高まり、周囲の変化に敏感になります。

この「覚醒度が上がり、重要な刺激に注意を向けやすくなる」という仕組みは、私たちが環境の中で安全に生きるために欠かせません。

つまり、RASを含む覚醒システムは、そもそも私たちを「世界から切り離された状態」にするのではなく、環境の変化を検出し、必要な情報に対応できる状態へ脳を調整する役割を担っています。

不安になると、脳は「危険かもしれないもの」に敏感になる

ここで不安との関係が見えてきます。

不安とは、まだ確定していない未来の危険に対する警戒とも関係しています。

「何か悪いことが起こるかもしれない」「このままで大丈夫なのだろうか」「原因が分からないけれど、何かがおかしいのではないか」

こうした状態になると、脳は「安全かどうか」を確認しようとします。

すると、環境から入ってくる情報の中でも、脅威や危険に関係するものに注意が向きやすくなります。

ここでは、RASだけでなく、扁桃体をはじめとする情動・脅威処理のシステム、ノルアドレナリンなどを介した覚醒調節系、前頭前野による認知的な評価などが複雑に関係します。

その結果として、

「何か危険ではないか?」

というモードになっていると、普段なら気にしなかった情報まで重要に感じられることがあります。

これが、私たちの日常で感じる「不安になると、不安の材料ばかり見つかる」という現象の背景の一つです。

「不安」が「不安の証拠」を探す循環をつくる

たとえば、「自分は病気なのではないか」と心配している人を考えてみましょう。

最初は、ほんの小さな身体の違和感だったかもしれません。

しかし、「もしかしたら病気かもしれない」と考え始めると、身体への注意が強くなります。すると、普段なら意識しない心拍、呼吸、筋肉の緊張、胃腸の感覚などにも気づきやすくなることがあります。

そして、その感覚を、「やっぱり何かおかしい」と解釈すると、さらに警戒が高まります。

すると、また身体の情報を探す。その情報が、さらに不安を生む。

このように、

不安→ 警戒が高まる→ 脅威関連の情報に注意が向く→ 気になる情報を発見する→ 「やっぱり危険かもしれない」と解釈する→ さらに不安になる

という循環が生じることがあります。

ここで重要なのは、「実際に危険な情報が増えた」のではなく、「自分の注意の向け方が変化した」可能性があるということです。

同じ世界を見ていても、脳の状態によって「目につくもの」が変わるのです。

RASを「脳の検索エンジン」と考えると分かりやすい

RASを検索エンジンにたとえる説明は、神経科学的には単純化されていますが、日常的な理解のための比喩としては便利です。

たとえば、自分の頭の中に、「危険かもしれない」という検索語が設定されているとします。

すると、同じ日常生活の中でも、「危険ではない証拠」よりも「危険かもしれない証拠」のほうが目につきやすくなる。

一方で、「これはどういう仕組みなのだろう?」という問いを持つと、今度は原因や構造を理解するための情報に注意が向きやすくなります。

つまり、私たちの注意は、単純に「外から入ってきた情報」によって決まるのではありません。

自分が何を重要だと感じているのか、何を予測しているのか、どのような状態にあるのかによって、同じ環境から取り出される情報が変わるのです。

この視点は、先ほどの記事で扱った「不安の正体が分からない」というテーマと非常につながります。

「分からない」ことが不安を生み、「不安」がさらに「分からない」を増やす

ここには、興味深い循環があります。

何が起きているのか分からない。

だから不安になる。

不安になると、脳は危険を探しやすい状態になる。

すると、周囲から「危険かもしれない情報」が目につく。その情報によって、さらに「何かあるのではないか」と思う。すると、もっと情報を探す。しかし、不安な状態で情報を集め続けると、情報が増えすぎて、かえって何が重要なのか分からなくなることもあります。だからこそ、不安なときに「もっと考えれば解決する」とは限りません。

まず、考える前に自分の状態を整えるという発想が重要になります。

 

だから「不安」と「安心」の間に、呼吸を置く

ここで、ゆっくりした呼吸マインドフルな呼吸が意味を持ってきます。

不安になっているときには、身体も心理も「何かに対処しなければならない」という方向へ傾きやすくなっています。

そこで、すぐに答えを出そうとするのではなく、いったん呼吸に注意を向けます。

息を吸う。息を吐く。胸やお腹の動きを感じる。身体が椅子や床に支えられている感覚を感じる。

そして、「私はいま、不安を感じている」と気づく。

このとき重要なのは、呼吸によって「不安を消す」ことではありません。

不安に対して自動的に反応する前に、いったん立ち止まることです。

ゆっくりとした呼吸やマインドフルネスは、注意を現在の身体感覚へ戻すための実践として役立ちます。また、ゆっくりした呼吸は自律神経系や心拍変動などの生理的調節にも影響し得ます。ただし、その効果を「RASを直接オフにする」と単純化するのは適切ではありません。

より正確には、覚醒・自律神経・注意・情動調節が相互作用する中で、落ち着いて状況を観察しやすい状態をつくるための一つの方法と考えるのがよいでしょう。

「反応する」から「観察する」へ

不安の強い状態では、

「怖い!」

という感覚の直後に、

「逃げなければ」「調べなければ」「何とかしなければ」

と反応してしまうことがあります。

しかし、呼吸を通していったん立ち止まると、

「私はいま不安を感じている」

と観察できるようになります。

さらに、「何が不安なのだろう?」「私は何を恐れているのだろう?」「何が分からないのだろう?」「本当に危険なのか、それとも危険かもしれないと予測しているだけなのか?」と問い直すことができます。

ここで初めて、「不安の正体を調べる」という作業が可能になります。

つまり、

不安 → 反応

ではなく、

不安 → 呼吸 → 観察 → 理解 → 選択

という流れに変えるのです。

RASを「敵」にしないことが大切

ここで、RASについてもう一つ重要なことがあります。

「RASがネガティブな情報ばかり拾っているから、RASを変えればいい」

と考える必要はありません。

そもそも、危険を察知する能力は、生きていくうえで必要なものです。

もし、危険をまったく見つけられなかったら、私たちは安全に生活できません。問題なのは、危険を察知することそのものではありません。

危険がないところまで危険として解釈し続けたり、注意が脅威に固定されて、他の可能性が見えなくなったりすることです。

したがって、目指したいのは「危険情報を一切見ない脳」ではありません。

むしろ、

危険を見ることもできる。
安全を見ることもできる。
そして、必要な情報を落ち着いて選択できる。

そんな柔軟な注意の状態です。

不安の正体とは「正体」が分からないことだった。カラクリや仕組みが分かれば、不安はやわらぐ。

「不安だからこそ、理解する」という方向へ

ここまで考えると、最初の記事のテーマがさらに明確になります。

不安になったとき、「不安だから、考えないようにしよう」とするだけではなく、「この不安は何を知らせているのだろう?」と考えてみる。

そして、まず呼吸によって自分を整える。

そのうえで、「私は何が分からないのだろう?」と問いかける。

たとえば「何が起きているのか?」「なぜ起きているのか?」「どの部分は事実で、どの部分は自分の予測なのか?」「自分にできることは何なのか?」と、一つずつ分解していきます。

すると、「得体の知れない不安」が、「理解すべき具体的な問題」へと変わっていきます。そして、理解が進むほど、注意も「危険を探し続ける」だけではなく、「解決策を探す」「選択肢を探す」という方向へ向けやすくなります。

RASから自由意志へ――「何を見るか」から「何を選ぶか」へ

この考え方は、さらに自由意志のテーマにもつながります。

不安が強いときには、脳の注意が脅威に引っ張られ、自動的な反応が起こりやすくなります。しかし、そこで呼吸して立ち止まり、注意を取り戻し、「何が起きているのか?」を理解していく。

すると、「どう反応するか」だけではなく、「どう関わるか」を考えられるようになります。

これは、自由意志を「何でも自由に選べる」という意味ではなく、自動的な反応のままではなく、状況を理解したうえで、自分に可能な選択肢を見つけていく能力として考えると分かりやすいでしょう。

だから、

不安→ 呼吸→ 気づき→ 理解→ 選択→ 行動

という流れには、大きな意味があります。

不安を消してから行動するのではありません。不安を感じている自分を整えながら、不安の仕組みを理解し、そのうえで選択する。これが、現実的な意味での「自分でハンドルを握る」ということなのかもしれません。

本当の安心とは「危険がないこと」ではなく「理解して関われること」

RASと不安の関係を考えると、「安心」という言葉の意味も変わってきます。安心とは、「何も悪いことが起こらない状態」ではありません。また、「危険な情報を見ない状態」でもありません。

むしろ、

「何が起きているのかを理解し、必要な情報に注意を向け、自分にできることを選択できる状態」

と考えることができます。

だからこそ、不安の反対にある安心は、「完全な無風状態」ではありません。

不確実性が残っていても、

「分からないことはある。でも、調べることができる」
「不安はある。でも、呼吸して落ち着くことができる」
「未来は分からない。でも、今できることを選べる」

という感覚がある。

それが、より現実的で持続可能な安心なのではないでしょうか。

不安をなくすのではなく、「不安との関係」を変える

RASの機能を考えると、不安への向き合い方も変わってきます。

不安になった自分を責める必要はありません。危険を探してしまう自分を責める必要もありません。脳には、環境の変化や危険を察知しようとする仕組みがあるからです。

大切なのは、その仕組みにすべてを任せてしまわないことです。

不安を感じたら、まず立ち止まる。ゆっくり呼吸する。身体を感じる。「私はいま、不安を感じている」と気づく。

そして、「私は何が分からないから不安なのだろう?」と問いかける。

そこから、必要な情報を集め、仕組みを理解し、自分にできることを見つけていく。

すると、

「不安だから危険を探す」

という状態から、

「理解するために必要な情報を探す」

という状態へ、少しずつ方向を変えることができます。

もちろん、これはRASだけで起こる単純なスイッチの切り替えではありません。脳の覚醒、注意、情動、認知、身体状態など、多くの仕組みが関係しています。

それでも、「不安になると世界が危険に見えてくる」という現象を理解するうえで、RASを含む注意・覚醒システムを知っておくことには大きな意味があります。

そして、この理解そのものが、安心への第一歩になります。

不安の正体とは、必ずしも「危険そのもの」ではない。

ときには、「何が起きているのか分からない」ことが、不安を大きくしているのです。

だからこそ、不安になったときには、すぐに答えを出そうとしなくてもいい。

まず呼吸する。自分を整える。そして、「何が分からないのか?」を見つける。カラクリが分かり、仕組みが分かり、自分にできることが見えてくる。

そのとき、世界そのものが変わっていなくても、世界との関わり方が変わります。

そして、その「関わり方が変わった」という感覚こそが、不安と安心の間にある、とても大切な変化なのではないでしょうか。

 

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます(^^♪

当ブログ「ハチミツとミトコンドリア」ではハチミツの栄養効果とミトコンドリアのエネルギーで、令和の時代の真の健康と幸福の実現、現代病の問題の多くを解決する方法について考えています。ここまで記事を読んでくださり、ありがとうございます。


(なお、健康についてはそれぞれ個人差があり、誰にとっても100%正しい情報というのは考えにくいため、当ブログの記事内容については参考程度に止めておいていただければ幸いです)。

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