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今回は『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』(アランナ・コリン 著 矢野真千子 訳 河出書房新社)を、これからの健康を考えるためにご紹介していきたいと思います。
近年、私たちの腸内に生息する腸内フローラや、皮膚や口腔内に存在する無数の微生物などに関する本が多く出版されるようになりましたが、2016年に出版されたアランナ・コリン氏による『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』は、私たち「ヒト」を取り巻く微生物群に関する話題が網羅された、非常に読み応えのある一冊だといえます。
特に本書『あなたの体は9割が細菌』においては、著者のアランナ・コリン氏が、サイエンスライターであるということもあり、客観的・中立な立場から、微生物と健康や病気の関係について克明に迫っていることが特徴だといえます。
そのため、よほどの信頼できる研究データが示されていない限り、腸内細菌のバランスを整えたり、腸内環境を改善したりするための食事法といった、健康を維持するための具体的な方法について書かれることはありません。
また、食物繊維の摂取量を増やすことでアッカーマンシア菌が増加したという個人的な経験については述べられていますが、ヨーグルトをはじめとした有用菌を採り入れるプロバイオティクスや、腸内細菌のエサになるプレバイオティクスの効用などについても、企業の広告のように声高に宣伝されることはなく、かなり慎重に書かれています。
ところで、本書『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』に書かれている内容で、マイクロバイオームと関わりが深く、特に現代社会を生きる中で印象的だと感じられたのは、
- 自己免疫疾患
- 自閉症
- 肥満
- 抗生物質
- 帝王切開
- 皮膚常在菌(体臭の問題)
といった話題です。
マイクロバイオームは心の病気の多くや、アレルギー、肥満などと深く関係している。
腸内細菌叢だけではなく、マイクロバイオーム(微生物とヒトとの相互の関わり)が、21世紀において大きな問題となっている、うつ、自閉症など心の病気の多くや、アレルギー、肥満などと深く関係していることは確かです。
そしてその背景には、抗生物質の乱用や過度の除菌、不可避ではなく選択としての帝王切開なども関わってくると思われますが、本書『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』では、そのような問題についての見解が客観的に述べられています。
ちなみに、生物学を専攻していたアランナ・コリン氏は、マレーシアのクラウ野生生物保護地区で過ごしていた際に、ダニによる熱帯病に感染してしまったといいます。
ロンドンに戻ると、幸運にもダニ媒介型の感染症は、抗生物質によって抑えられたものの、今度は、皮膚の発疹や胃腸が弱くなることなど、別の不具合に苦しめられるようになったそうなのです。そして、
「あの一連の抗生物質は、私を苦しめていた細菌を全滅させただけでなく、もともと体のなかにいた細菌まで絶滅させてしまったのではないだろうか。私は自分の体が微生物の棲めない荒れ地になってしまったように感じ、かつて私の体を棲み処としていた一〇〇兆個の友好的な微生物がどれだけ重要な存在であったかを、このときはじめて意識した。」
というのです。
本書『あなたの体は9割が細菌』が書かれた背景に、著者のこのような体験があったことは見過ごすことはできないように思うのですが、さらに本書には、以下のようなくだりがあります。
私は人体に棲む微生物のことを調べるうちに、自分自身を独立した存在と考えるのをやめ、マイクロバイオータの容器だと考えるようになった。私自身と私のマイクロバイオータはまとめて一つの「チーム」なのだ。どんな人間関係もギブ・アンド・テイクで成り立っている。それと同じように、私は微生物に対する提供者であり保護者であり、微生物はそのお返しに私に栄養を与えてくれる。私は私のマイクロバイオータが喜ぶような食事の摂り方を考えるようになった。
(アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』 矢野真千子 訳 p137~138)
マイクロバイオータはある意味、一つの臓器だ。目で確認することが困難なためにこれまで見落とされていた、人体の中にあって健康と幸福に寄与する臓器である。この臓器がほかの臓器と違うのは、固定化されていないことだ。ヒトの遺伝子とは違い、微生物の遺伝子は不変ではない。共生微生物とその遺伝子は、どちらも私たちの体内にあり、私たちの管理下にある。私たちの遺伝子を選べないが、微生物を選ぶことはできる。
(アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』 矢野真千子 訳 p311)
微生物とどのように共生していくか、という視点は、21世紀の健康と幸福を考える上では欠かせない。
以上ここまで、『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』をご紹介してきましたが、腸内フローラのバランスや、アレルギーや肥満といった疾患の増加、キレイ社会における除菌のしすぎ、抗生物質による耐性菌の問題なども含め、目に見えない微生物の存在と、どのように共生していくか、という視点は、令和の時代や、21世紀のこれからの健康と幸福を考える上では欠かせないように思うのです。
『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』 目次
プロローグ 回復はしたけれど
序章 人体の九〇%は微生物でできている
第1章 二一世紀の病気
第2章 あらゆる病気は腸からはじまる
第3章 心を操る微生物
第4章 利己的な微生物
第5章 微生物世界の果てしなき戦い
第6章 あなたはあなたの微生物が食べたものでできている
第7章 産声を上げたときから
第8章 微生物生態系を修復する
終章 二一世紀の健康
エピローグ 一〇〇%の世話をする