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今回は今さら聞けないプロバイオティクスとプレバイオティクスの違いについてです。
プロバイオティクスとプレバイオティクスの違いとは、簡単にいえば、食品やサプリメントなどによって腸内に有用な菌を直接送り込むか、それとも腸内細菌のエサになるような食品(栄養成分)を摂ることによって、「善玉菌」と呼ばれるような菌を増やすか、です。
- プロバイオティクス・・・腸内に人体にとって有用な働きをする菌を直接送り込む。
- プレバイオティクス・・・腸内細菌のエサになるような食品を摂ることで善玉菌を増やす。
まず、「プロバイオティクス」についてですが、プロバイオティクスとは生きたまま腸にたどりつき、そこで産生する乳酸などの代謝産物が、ヒトのカラダに有益な健康効果をもたらしてくれる微生物のことです。
ヒトにとっての有用な菌として代表的なのは乳酸菌やビフィズス菌ですが、「乳酸菌」とは、腸内で善玉菌として働く乳酸桿菌などの総称のことで、乳酸を生み出して腸を酸性に保つ働きがあります。
一方、ビフィズス菌が生み出すのは乳酸と酢酸です。
もし、腸が酸性に保たれなければ、病気をもたらす細菌やウイルスが死滅せず、体内に侵入しやすくなったり、悪玉菌が増殖しやすくなったりすると言われているため、ヒトの腸内の環境は常にビフィズス菌や乳酸菌の働きによって正常な酸性に保たれなければならないのです。
プロバイオティクスに期待できることとは?
ところで、腸内細菌の構成(腸内フローラ)は成人になるとほとんど決まってしまっています。
そのため、新しい菌を腸内フローラに定着させるのはなかなか難しいといわれており、外から摂取したビフィズス菌や乳酸菌もやがて体外に排出されますが、生きたまま腸に届くと、3~7日は乳酸や酢酸をせっせと生み出してくれるとされています。
また乳酸菌は、腸管の免疫システムに存在する樹状細胞のTLRと呼ばれるセンサーを働かせることで、免疫活性を促すため、免疫力を高めるのにも役立つとされています。
このTLRと呼ばれるセンサーはアレルギーの発症原因にも関わってくるため、乳酸菌の摂取は花粉症やアトピー性皮膚炎など、アレルギー症状の改善にも効果的だといわれています。
さらに、ヒトにとっての有用菌を腸内に送り込むプロバイオティクスの効果は、抗生物質を使用することによって腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが乱れた際、病後の回復を早めたり、下痢や感染症を予防したりすることが期待されています。
プロバイオティクスはその核心において、免疫系の働きを健全なほうに向かわせる何らかの効果を有しているに違いない。二十一世紀の根底に横たわるものを思い出してほしい。私たちの体を苦しめているのは炎症だ。プロバイオティクスに真の価値があるとすれば、それは炎症を鎮めることだろう。
(アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌』 矢野真千子 訳 p270)
発酵食品はプロバイオティクスとしてお勧め。
以上ここまで、「プロバイオティクス」について述べてきましたが、プロバイオティクスによる健康法は、乳酸菌が含まれたヨーグルトやチーズ、納豆や漬け物といった日本伝統の発酵食品などを日頃から食生活に採り入れることで実践可能です。
その際、植物性の乳酸菌などが生きたまま腸に届いて働くことが望ましいとされていますが、胃酸によって死菌となった乳酸菌も腸内の善玉菌のエサになるため、菌が生きているか死んでいるかに強くこだわる必要はないともいわれています。
プレバイオティクスとは何か?
一方、プレバイオティクスとは腸内細菌のエサになる成分、特に水溶性の食物繊維やフラクトオリゴ糖などの炭水化物が含まれた食品を腸に送り込み、善玉菌を増殖させる方法もしくは、善玉菌を増やす働きがある食物繊維やオリゴ糖などが含まれた食品のことです。
「プレバイオティクス」の「プレ」とは「~より前に」や「事前に」を意味します。そのプレバイオティクスの定義は以下の通りです。
消化管上部で分解、吸収されない。
大腸に共生する善玉菌の栄養源となり、増殖を促進したり、活性化したりする。
大腸の腸内フローラの細菌構成を健康的な状態にする。
人の健康の増進・維持に役立つ。
(辨野義己 『腸を整えれば病気にならない』より抜粋)
栄養素は基本的に胃液や膵液に含まれる消化酵素によって分解され、やがて小腸で吸収されますが、食物繊維やオリゴ糖などの炭水化物は小腸で吸収されずに、腸に止まり続けるので、腸内に生息する腸内細菌のエサになることができるのです。
特に食物繊維は、ビフィドバクテリウムやバクテロイデスといった腸内細菌によって分解されると、「発酵」という現象が起こって、「短鎖脂肪酸」とよばれる脂肪酸が生成されるようになります。
この「短鎖脂肪酸」は、大腸のエネルギー源になるほか、免疫系を活性化したり、大腸がんを防ぐ働きがあったりするとされています。
さらに、近年は短鎖脂肪酸には肥満細胞に余分なエネルギーが蓄積されて脂肪が溜まるのを防ぐ働きがあることなども分かってきているため、食物繊維を摂ることで腸内細菌による「発酵」を促し、短鎖脂肪酸を生成させることは、免疫力をアップさせるだけではなく、肥満症や糖尿病などの生活習慣病の予防やダイエットにも役立つといわれています。
そのほか、短鎖脂肪酸が腸内細菌によってある程度きちんと作られることは、腸壁に穴があくリーキーガット症候群の予防や改善などにもつながっていくとされています。
食物繊維を摂ることの注意点とは?
ちなみに食物繊維には水溶性と不溶性のものがあり、どちらか一方を偏って摂るのではなく、このふたつをバランス良く「1:2」で摂ることが、腸内フローラの改善や便秘の解消などには重要だと言われています。(水溶性食物繊維が1、不溶性食物繊維が2)。
また日頃の食生活において肉食を中心としている場合、腸内フローラを改善したり、腸内環境を整えたりするには、いきなり大量に食物繊維を摂るのではなく、少しずつ食物繊維の摂取量を増やしていくことが大切になってきます。
しかし、SIBO(小腸内細菌増殖症)の方は、腸内細菌を増やす水溶性の食物繊維やオリゴ糖などが多く含まれたプレバイオティクス食品は、かえって健康のために逆効果になる場合があるといわれていますので、注意が必要です。
「食物繊維」という言葉は不明確なので、ヒトが体内に取りこむ食物成分のうちマイクロバイオータの食べ物になるものを、私たち二人は「マイクロバイオータが食べる炭水化物」を意味するmicrobiota accessible carbohydrates(MAC)と呼ぶ。すでに述べたように、マックは果物や野菜、豆類、穀物などさまざまな食物にふくまれ、マイクロバイオータによって発酵される炭水化物のことである。食物や食物繊維サプリメントにふくまれる食物繊維には、マイクロバイオータのいる大腸まで到達せず発酵しないものもある。これらの発酵しない繊維質も便秘の改善にはとても効果があり、排泄物が水分を吸って嵩が増すので、良好な整腸作用が得られる。
(ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p157)
腸内環境の改善は地道に続けることが大切。
以上ここまで、プロバイオティクスとプレバイオティクスの違いについて述べてきましたが、プロバイオティクスもプレバイオティクスも、うまく利用することで腸内環境を良くするのに有効だと思われます。
しかし、「過ぎたるは及ばざるが如し」で、やみくもに善玉菌を増やそうとしても、思い通りに腸内環境が良くなったり、腸内細菌のバランスが整ったりするとは限りません。
そのため、腸内環境を改善していくことに関しては、焦らずに、じっくりと土壌を耕すつもりで、発酵食品や食物繊維を食生活に取り入れるといったことを、地道に続けてみてはいかがでしょうか?