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今回は「心の不調」と腸・皮膚・筋肉の関係についてです。
前回の記事では、「心と身体へのアプローチがうつをやわらげる」ということについて述べましたが、今回は「心とは何か」ということを考えるために、臨床発達心理士の山口創氏の『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』を取りあげてみたいと思います。
正直、「心とは何か」というのは非常に難しい問題ですが、「心」について私が日々感じていることは、「心」とはおそらく、「気づき」や「認知」に関わる「機能」や「働き」のことであり、「脳=心」ではないということです。
また、「心」という目に見えない存在を扱う時に、「心とは~というものだ」と、安易な定義づけを行うことは出来ないということです。
たとえば「心」は「脳」が生み出している、と、大学に所属する脳科学専門の研究者の方が、自分の研究を踏まえながら発言したとしても、一方で、「心」は「脳」ではなく本当は「腸」や「内臓」、「皮膚」が生み出していると考えている研究者の方もいるわけで、どちらが正しいのかは一概に言えないのです。
さらに脳でも腸でも皮膚でもなく、心とは「私」の外にあり、そのつど形成されると考える学者もいます。
そのため、「心とは何か」という問題について考える時は、「心」がどこに由来しているのかを簡単に決めつけず、常に保留にしておく態度が大切だと思われます。
そのようなことを踏まえたうえで、山口創氏の『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』から、「心」について書かれているくだりを引用したいと思います。山口氏が「心」を考えるうえで重要視しているのは、腸と皮膚、それに筋肉です。
(略)私は心にとっての中枢は内臓、皮膚、そして筋肉という3つの臓器が握っていると思うのです。
アリストテレスは心を知・情・胃から成ると考えました。内臓・皮膚・筋肉の3つの臓器は、それぞれ小さな脳のような役割を持っていて、知・情・意の三者と密接に関わっているのです。ですから、それらの臓器の持つ「小さな脳」としての役割を取り戻し活用することが、大きな脳(大脳)の暴走に歯止めをかけて本当にすこやかで人間らしい心と身体を手に入れるための秘訣ではないかと考えています。
(山口創『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』p2~3)
特に「腸」と「皮膚」と「筋肉」に着目するのは次の理由からです。
腸は「意欲」や「生きる力」といった「根源的情動」を生みだす元になっています。また、腸は人の潜在意識に信号を送り、勘を鋭くしたり性格にも関係しています。腸のはたらきが鈍ると、生きる意欲が湧いてこなくなり、抑うつや不安の強い性格にもなってきます。
また、皮膚は五感の中でも「根源的な感覚」である触覚を生みだします。これは五感の中でも特に重要で、すべての感覚をいきいきと活性化させるための土台となる感覚なのです。そしてさらに感覚は情動のベースになりますから、五感が活性化されないと情動もまた機能不全におちいってしまうのです。
さらに筋肉は、自分の意志で動かすことができる点で意志力と結びついています。また、人は手を動かしながら記憶したり、思いだしたりするように、知的なはたらきを助けています。しかし筋肉には自分の意志とは関係なく自動的に(無意識のうちに)動いている面もあり、そこは腸と同じように情動や情緒の土台となっています。
(山口創『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』p3~4)
うつをやわらげるためには「感じる」ことを大切にしてみる
また山口創氏は『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』のなかで、「人間の心にとって、どのような側面が大事なのか」ということについて、「感じる」はたらきが大切だと述べています。
私は人間にとって、言葉を話したり、論理的に考えるといったような知的なはたらきよりも、それを支えている情動や感覚といった「感じる」はたらきのほうがはるかに大切だと思います。なぜなら、「感じることがないと考えることすらできない」からです。
先ほどのアリストテレスの知・情・意のはたらきに順序をつけるとすれば、人が動くためにはまず意欲や意志力が大切であり、次にその時々の気分や感覚に応じた動きがあり、最後に頭で考えて動く、という順序だと思います。
たとえば、運動が健康にいいことは頭でわかっていても長続きしないのは、知的なはたらきである頭の機能が最も弱いからです。そして毎日の気分によって運動したりしなかったりするのは、気分や感覚のはたらきが頭のそれよりも強いからです。そして、たとえ気分がのらなくても運動できるのは、意志や意欲が最も強いからです。
(山口創『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』p4)
ここで山口氏が何を述べようとしているのかを、簡単に要約しますと、頭で考えるよりも、気分や感覚が先にあり、さらにその先、つまり最初に「意志」や「意志力」があるということなのです。
ちなみにここのくだりの「意志」や「意志力」とは、運動が続かないのは<意志>が弱いからだ、という時の「意志」や「意志力」ではありません。
そうではなく、一つ前に引用した箇所で「筋肉は、自分の意志で動かすことができる点で意志力と結びついています」と述べられているように、筋肉を動かそうとする「意志」「意志力」のことです。
そのため、「意志や意欲が最も強い」という理由から、「たとえ気分がのらなくても運動できる」のです。
現代社会は「感じること」よりも「考えること」のほうが重視されている
しかし現代社会は、山口氏が「ところが脳化された社会では、逆の順序で重視されています。自分の行動の理由について、感情や感覚的な説明ではなく、それらを排除した方法をことさら重視しています」と述べている通り、「感じること」よりも「考えること」のほうが重視されている「脳化社会」なのであり、そのことが心の健康を維持するためには問題であるように感じられます。
もちろんここで日頃の生活において「考えること」は必要ないと、極端なことを述べようとしているのではありません。そうではなく、「感じること」に根差した身体感覚が失われつつあることが、「心の健康」を考えていくうえで、問題になってくるように思うのです。
「心とは何か」ということについて考えるのは非常に難しいということを、この記事の冒頭でも述べましたが、今回私が述べたかったのは、「心」という不可解な存在は、「考えること」だけではなく、むしろ「感じること」のほうを土台にしているのではないか、ということです。
したがって、「いのちの働きを感じることがうつを解消していく」という記事でも述べましたが、身体感覚を取り戻すために大切になってくるのは、日頃から身体の感覚を意識的に感じられるような、ヨガや太極拳、スロージョギングなどの(ゆっくりとした)運動を行うことなのだと考えられるのです。
人間は脳を発達させたために、目の前の刺激がなくなっても思考やイメージでいつまでも当初の感情を持続させてしまうようになりました。すると筋肉で固めた身体は血流が滞り、栄養素が行き渡らなくなり、障害や病気のもとになるのです。
そのような筋肉の緊張状態でいると、本来は意味のない刺激に出会っても、筋肉の緊張パターンに応じた情動が誘発されやすくなってしまいます。そしてそのような情動はやがて日常の情動の基底部分である気分を醸成するようになり、ずっと続くようになるのです。(山口創『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』p145)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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