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ストレスで普段からイライラしやすい、自律神経が乱れやすい、という方こそ、ヨガの呼吸法に注目してみませんか?
当ブログでは心身の健康維持のために、日常的なヨガの実践をオススメしていますが、今回はヨガの片鼻呼吸法が自律神経のバランスを整えるということについてです。
ヨガにおける「呼吸」は何を意味するのか?
ヨガの伝統的な教えにおいて、「呼吸」は単なる酸素と二酸化炭素の交換ではなく、「プラーナ(Prana)」という目に見えない生命エネルギーを取り込み、全身に巡らせるためのプロセスであるとされています。
また、この「プラーナ」は、宇宙に満ちている根源的生命エネルギーであるとも言われており、ヨガでは、プラーナーヤーマ(調気法)と呼ばれる呼吸の制御を主な手段として、体内のプラーナの流れを整え、心身の活動を支える土台を養います。
呼吸法(プラーナーヤーマ)の真の意味とは?

ヨガの呼吸法は、サンスクリット語で「プラーナーヤーマ」と呼ばれていますが、この「プラーナーヤーマ」は「プラーナ(生命エネルギー)」と「アーヤーマ(拡張する、制御する、長くする)」という2つの言葉から成り立っています。
つまりプラーナーヤーマとは、単に空気を吸ったり吐いたりする運動ではなく、体の内側にあるエネルギーの流れを整え、広げていくための技術なのです。
ちなみに「プラーナ」は、東洋医学でいう「気」に近い概念だとされていますが、ヨーガ行者である成瀬雅春氏は、「プラーナ」と「気」はイコールでは結べないとし、以下のように述べています。
プラーナは、地球上はもちろん、宇宙に存在しているあらゆるものを形作っているエネルギーです。動物、植物、鉱物、気体も全部含め、存在として考えられるものはすべてプラーナが作り上げている、と解釈されています。
ヨーガの呼吸法は「プラーナーヤーマ」というのですが、それはサンスクリット語で「プラーナをアーヤーマ(コントロール)する」という意味です。また、生き物のことをプラーニン(プラーナを有するもの)と呼びます。そしてアーヤーマという語には、「コントロールする」に加えて「伸ばす」「拡張する」「長さ」「幅」「規則的」などの意味があります。
つまりヨーガ呼吸法は、単に呼吸のテクニックだけではなく、生命エネルギーを拡張する、生命力を高めるための方法でもあるのです。
(成瀬雅春『死なないカラダ、死なない心』 84頁)
ヨガにおけるナディとは?
また、ヨガでは、体の中に「ナディ」と呼ばれるエネルギーの通り道があると考えられています。このナディは目には見えませんが、血管や神経のように全身に広がり、エネルギーの流れに関わっているとされています。
そして、生活の乱れやストレスによってこの流れが滞ると、体の不調や心の不安定につながると考えられています。
ヨガの深く穏やかな呼吸は、このナディの流れをスムーズにする働きがあります。いわば体の内側をやさしく整える習慣です。呼吸が整うと、自然と体が軽くなり、気持ちもクリアになっていきます。
最初のうちは呼吸法については難しく考えすぎず、鼻でゆっくり呼吸することから始めてみてください。それだけでも、内側の変化を少しずつ感じられるはずです。
ナディと片鼻呼吸の関係
ちなみにこの「ナディ(エネルギーの通り道)」と「片鼻呼吸(ナディ・ショーダナ)」というヨガの呼吸法との関係を理解することは、心身のバランスを整えるための最も重要な鍵となります。
ナディ・ショーダナは直訳すると「管(ナディ)の浄化(ショーダナ)」を意味します。以下、目に見えないエネルギーの通り道を掃除し、流れをスムーズにするためのメカニズムを詳しく紐解いていきましょう。

1. 三つの主要なナディ(エネルギーの通り道)
私たちの体には数万本のナディがあると言われていますが、中心となるのは以下の三本です。これらが整うことで、生命エネルギー(プラーナ)が淀みなく巡るようになるとされています。
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イダ(左の鼻・月のエネルギー)
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左の鼻の穴とつながり、右脳を活性化させます。
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性質:冷却、鎮静、リラックス。
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現代風に言えば「副交感神経」の働きに近いエネルギーです。
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ピンガラ(右の鼻・太陽のエネルギー)
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右の鼻の穴とつながり、左脳を活性化させます。
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性質:加温、活性、論理的思考。
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現代風に言えば「交感神経」の働きに近いエネルギーです。
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スシュムナー(中央の管)
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背骨に沿って通る中心的なルートです。イダとピンガラのバランスが完璧に整った時、エネルギーはこの中央を通り、深い瞑想状態や高い集中力へと導かれるとされています。
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2. なぜ「片方ずつ」呼吸するのか?
私たちは無意識のうちに、数時間おきに優位になる鼻の穴が入れ替わる「鼻(ネーザル)サイクル」を持っています。しかし、ストレスや不規則な生活が続くと、このリズムが乱れ、どちらか一方のエネルギーに偏ってしまいます。
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右(ピンガラ)が強すぎる時: イライラ、興奮、不眠、多忙感。
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左(イダ)が強すぎる時: 無気力、気分の落ち込み、消化不良。
片鼻呼吸法(ナディ・ショーダナ)は、指を使って意図的に左右の空気量を調整することで、これら二つのエネルギーを強制的に、かつ優しく「中立(センター)」に戻す作業なのです。
3. 神経系へのリセット効果
現代科学の視点で見ると、片鼻呼吸は脳の左右の半球をバランスよく刺激し、自律神経系をダイレクトに調整する手法として注目されています。
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鼻腔への刺激
鼻の奥には微細な神経が密集しており、交互に空気が通る刺激が脳幹に伝わり、オーバーヒートした神経系を鎮めます。 -
「静止」の役割
左右を切り替える瞬間に一瞬だけ呼吸を止める(クンバカ)時間を設けると、ナディの深部までプラーナが浸透し、情報の洪水で散漫になった意識が一つにまとまっていきます。
4. 実践:ナディを浄化する意識
片鼻呼吸を行う際は、単なる「鼻の穴の切り替え」と思わずに、以下のようにイメージしてみてください。
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左から吸う時: 穏やかで涼しい月の光が、体内の熱を冷ましていく。
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右から吸う時: 暖かく力強い太陽の光が、体内の細胞を呼び覚ましていく。
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吐き出す時: ナディに溜まった古い情報やストレスが、呼気と共に外へ洗い流されていく。
このナディが浄化されると、呼吸はより深く、静かになります。それはまるで濁った水の底が透き通っていくように、自分の内側にもともとある静けさや、揺るがない何かが、おのずと姿を現してくる過程であるともいえます。
ナディ・ショーダナの実践ステップ
ここからは、ヨガ初心者の方でも自宅で静かに座って行える、基本的な手順を解説していきます。
1. 準備の姿勢
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背筋をスッと伸ばして座ります(椅子でも床でもOKです)。
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左手は膝の上に軽く置き、親指と人差し指で輪を作る「チン・ムドラー」を結ぶと集中しやすくなります。
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右手は「ヴィシュヌ・ムドラー」を作ります。人差し指と中指を内側に折り曲げ、親指と薬指(および小指)を鼻に当てる準備をします。
2. 呼吸の手順
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右の鼻を親指で閉じ、左からゆっくり吐ききります。
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左から静かに吸います。(月のエネルギーを取り込む)
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左を薬指で閉じ、右を開けてゆっくり吐きます。
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そのまま右から静かに吸います。(太陽のエネルギーを取り込む)
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右を親指で閉じ、左を開けてゆっくり吐きます。
これで「1サイクル」です。これを5〜10サイクルほど繰り返します。
実践を深めるための「3つのコツ」
① 「音」がしないほど静かに
無理に強く吸い込むのではなく、鼻の粘膜をなでるような、自分にしか聞こえないほど細く長い呼吸を意識してください。これにより、神経系への刺激がより繊細に伝わります。
② 左右のバランスを感じる
やってみると「右の方が通りがいい」「左が詰まっている」といった左右差に気づくはずです。これは今の自分のエネルギー状態を映す鏡のようなもの。無理にこじ開けようとせず、今の状態をただ観察しながら呼吸を続けます。
③ 「止める(クンバカ)」を挟む(慣れてきたら)
吸った後、両方の鼻を閉じて1〜2秒だけ「静止」の時間を挟んでみましょう。プラーナが体内の中心軸(スシュムナー・ナディ)に集まり、脳内がクリアになる感覚を味わえます。
期待できる効果
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精神の安定・・・左右の脳(右脳・左脳)のバランスが整い、イライラや不安が鎮まります。
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集中力の向上・・・散漫になった意識を落ち着かせて、仕事や作業に取りかかる前の気持ちを整えるのに適しています。
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深い睡眠・・・寝る前に行うと、交感神経の過剰な働きが抑えられ、スムーズに入眠しやすくなります。

片鼻呼吸は自律神経のバランスを整えるのに効果的。
なお、このヨガの片鼻呼吸で特に興味深いのは、自律神経との関係です。
たとえば医師の根来秀行(ねごろひでゆき)氏は、『病まないための細胞呼吸レッスン』のなかで、「左右の鼻の穴が交代で働いている」、「ネーザルサイクル」という生理的な現象について言及し、
「脳と連動して働き、右鼻呼吸が優位なときは交感神経と左脳が優位に、左鼻呼吸が優位なときは副交感神経と右脳が優位になる」
ことが分かっていると述べています。
そして、この片鼻呼吸法と自律神経の関係について以下のように述べています。
片鼻呼吸はヨガで最も大切な呼吸法とされ、右の鼻が「陽の気質(太陽)=交感神経」、左の鼻が「影の気質(月)=副交感神経」につながっていると考えられ、交互に呼吸することでエネルギーバランスが養われるといわれます。
さらに片鼻呼吸の途中に息を止めることで、血中の二酸化炭素濃度を適切な値に近づけます。口呼吸のクセがついている人も、毎日行っていると鼻呼吸が自然と身について、血中二酸化炭素への耐性もUP。自律神経が整い、ネーザルサイクルの働きも向上します。(根来秀行『病まないための細胞呼吸レッスン』 42頁)
根来秀行医師による片鼻CO₂呼吸法のやり方
左の鼻はリラックスを促す副交感神経に通じているので、緊張しているときは左鼻で息を吐く呼吸を多めにして左鼻の通りをよくすると、体も心もほぐれます。鼻息荒くならないように、やさしくゆったりと行って。
1 目と口を閉じて、右手の親指とひとさし指で小鼻をつかむ。
2 ひとさし指を離して、親指で右の鼻を閉じて、左の鼻の穴から5秒かけてゆっくり息を吐いていく、しっかり息を吐ききって。
3 そのまま5秒息を止める。慣れるまでは、この3を飛ばしてOK。
4 ひとさし指を小鼻のわきに戻し、親指を放して、右の鼻の穴から5秒かけてゆっくり息を吸っていく。
5 5回繰り返したら、吸う側と吐く側の鼻の穴を交代して、同様に行う。
(根来秀行『病まないための細胞呼吸レッスン』 43頁より抜粋)
まずはゆっくりと吐くことを意識することから始めてみる。

私たちは普段、無意識に呼吸をしています。しかし、精神的なストレスや緊張が続くと呼吸は浅くなり、リズムも乱れがちになります。この状態では体に十分な酸素が行き渡らないだけでなく、自律神経のバランスも崩れ、心と身体がともに不安定になりイライラしやすくなります。例えるなら、燃料切れの状態で無理に動いているような状態です。
このような時、大切なのは、「たくさん吸うこと」ではなく、前述したように「ゆっくり吐くこと」です。
呼吸は最初に吐くことで自然に息を吸えるようになり、リズムが整っていきます。特に、吸う時間よりも吐く時間を長くすることで、副交感神経が働きやすくなり、心と体が落ち着いていきます。
まずは「4秒で吸って、8秒で吐く」というシンプルな呼吸法でも、こまめに続けることで心と身体は驚くほど状態が変わっていきます。気持ちが静まり、思考がクリアになり、体の力みも抜けていきます。これは単なるリラックスではなく、内側のエネルギーの流れが整った結果です。
呼吸は、いつでもどこでも使える「自分を整えるスイッチ」です。少し意識を向けるだけで、心の状態や集中力、さらには日常の感じ方までも変わっていきます。
ヨガの呼吸法であるプラーナーヤーマは決して難しい技術ではありません。まずはゆっくりとした呼吸を意識することから始めてみてください。それだけで、あなたの内側の世界は静かに動き始めるかもしれません。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます(^^♪


























