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今回は腸内細菌の減少がアレルギーを引き起こすということについて述べていきたいと思います。
近年、若年層を中心に、花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支ぜんそくなどのアレルギー症状に悩まされる方が急増するようになりましたが、なぜそのような現象が起こるようになってしまったのでしょうか?
たとえば医学博士の藤田紘一郎氏は『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』のなかで、その原因は現代社会特有の「清潔志向」であると述べています。
藤田氏によれば住環境の整備によって「私たちの周りにいて免疫力を高めてくれている細菌類を一方的に追い出した」結果、「キレイ社会」になっていったそうなのですが、「このような「キレイ社会」が免疫力低下を導き、花粉症ばかりではなく、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患を生み出した」のだといいます。
また、ここ50~60年の生活環境の変化によって「アレルギーの発症だけではなく、生きる力そのものが弱ってきた」と藤田氏は述べています。
つまり、昔は細菌や寄生虫、回虫などが体内に多く存在していることが、免疫力を維持することにつながっていたのですが、それらの生物を一緒くたに「悪者」扱いし、抗菌グッズが氾濫していることからも分かるように排除してしまったことで、免疫力も生きる力も低下してしまったというのです。
しかも、医療の現場で使われる抗生物質も体内で有用な働きをする菌の排除に拍車をかけていると言います。
さらに最近の著作である『腸内細菌が家出する日』の中でアレルギーと腸内細菌の減少の関係について述べていることは、花粉症やアトピー性皮膚炎の症状を少しでも改善していくために、非常に考えさせられます。
腸内細菌との共生によって脳を大きくできた人間は、道具を使い、言葉を操るようになりました。その結果、人間は生物との付き合いを選り好みするようになりました。つまり、私たち人間が地球の生物学的世界を体系的に変え始めたのです。
生物界の大きな集団の一部として生活していた頃のヒトは、泥でつくった小屋に住み、天井にはコウモリやクモが普通にみられました。お腹の中には寄生虫が必ずいて、肌には得体のしれない細菌やカビがみられることもあったでしょう。
私たちのまわりに存在する細菌や虫の中で、有害なのは一部だけです。大腸菌でも、病原性のある一部を除いてはほとんど無害なのです。それなのに抗生物質や殺虫剤を乱用し、とにかくありとあらゆる細菌や虫を排除しようとしています。
このように、自分にとって好ましく思う生物種だけを生かし、そうでないものは有無を言わさず殺す、という行動を人間がとるようになってしまいました。
たとえば、回虫などの寄生虫は人類にとっては欠かせないパートナーのようなものでしたが、キモチワルイという理由から徹底的に排除されてしまいました。すでに多くの人が知っているとおり、回虫をお腹に飼っていた時代に比べると、花粉症やアトピー性皮膚炎に悩む人が現代では爆発的に増えています。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p92~93)
私は、日本人の近年のアレルギー性疾患増加の原因は、腸内細菌の減少にもあると考えています。
日本人の腸内細菌の数は、戦前の半分以下に減少しています。腸内フローラのバランスも崩れてきていて、日本人の腸年齢はどんどん老化する一方です。
このことは、私たちの糞便を調査することでよくわかります。糞便の約半分は、生きた腸内細菌と死んだ腸内細菌が占めているからです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p98~99)
アレルギーと腸内細菌の関係とは?
では、腸内細菌の減少とアレルギーはどのように関わってくるのでしょうか?
藤田紘一郎氏は「腸内細菌は「もう一人の私」なのです」とし、「それらの細菌の多くはヒトの腸にしか棲むことができないため、私たちが病気にならないよう、長く生きられるようにいろいろ工夫しています」と述べています。
病原体の多くは腸から体内に入り込みます。腸にたくさんの細菌が棲むのは、病原体の侵入を防ぐためでもあるのです。しかも腸内細菌は腸にいる免疫細胞を活性化する役割を担っています。このような腸粘膜と腸内細菌の協同作業で、人が持つ免疫力の約70%がつくられているというわけです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p119)
さらにそれだけではなく、お花畑のような腸内細菌の集まりである腸内フローラは、腸管において、病原体の侵入を防ぐバリア機能を働かせていると藤田氏は述べており、腸管には3つのバリア機能が備わっているといいます。
- 腸内フローラが有害な菌を排除する
- 腸上皮細胞が結びついて壁になる
- 表面の粘液層が抗菌作用を持つ
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p163)
なぜ腸内細菌が減るとアレルギーが引き起こされるのか?
つまり、腸内細菌の多様性である腸内フローラは、食物アレルギーの原因にもなる未消化の高分子タンパク質や、細菌、ウイルスなどが体内に侵入するのを防御壁の一つとして守ってくれているのです。
そのため、アレルギーに悩まされている方が急増している現在、食物アレルギーや花粉症、アトピー性皮膚炎といったアレルギー症状を少しでも緩和していくためには、腸内細菌の多様性を取り戻すように、腸内フローラの改善を行うことが、一つの有効な手段になり得ると思うのです。
また『腸内細菌が家出する日』のなかで、アレルギー症状を緩和するのに効果的だとされる「短鎖脂肪酸」は、腸内細菌のチームワークによって生み出されると藤田紘一郎氏は述べていますが、このことは腸内細菌の多様性を取り戻すことと、深い関係があるように感じます。
しかし問題なのは、藤田氏が指摘しているように、私たちの腸に共生している腸内細菌の数が次第に減ってきていることです。腸内細菌が減ってしまうことで、もし腸管のバリア機能が弱まってしまうと、前回の記事で述べた「リーキーガット症候群」や、難病ともされている潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患も発症してしまうことが考えられるのです。
ところで、藤田紘一郎氏の『腸内細菌が家出する日』には、
ヒトと寄生虫や微生物とのやりとりを研究していると徐々に、「免疫」とは異物を「排除」するための機構ではなく、他の微生物との「共生」をいかにスムーズにするか、そのための機構であると考えるようになってきました。つまり私にとって免疫とは、生体の防御というよりも「共生のための手段」だと思うようになってきたのです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』p14)
という印象的な一節があります。
私自身、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などに悩まされることがあり、そもそもアレルギーとは一体何なのかと考えることがありますが、アレルギー症状が起こってくるのは、藤田氏のいう「共生のための手段」が徐々に失われていっていることと何かしら関係があるのかもしれません。
そのため、大切なのはやはり腸内細菌の数が適度に増えるよう、日頃から腸内細菌のバランスを整え、腸内環境の改善を行っていくことだと思われます。
アレルギーを治療するうえでは、「自然治癒力」という東洋医学的発送を持つことが重要です。
「自然治癒力」とは、人間が生まれながらに持っている、病気やけがを治す力のことをいいます。(略)皮膚常在菌やデーデルライン乳酸菌、腸内細菌なども自然治癒力のひとつです。(『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方 p80)